しかし、刑法にいわゆる「傷害」とは他人の健康状態の不良變更等生活機能に障害を與える場合を包含する人の體驅の完全性を害するをいうのである。されば原判決が判示被害者の左耳殻後部右上肢前免及び左右上腿部に與えた治療約一週間を要する十數ケ所の擦過傷を目して「傷害」と解したのは正當であつて、この點につき原判決には法律の解釋を誤つた違法はない。
刑法にいわゆる「傷害」の意義と治療約一週間を要する擦過傷
刑法204條
判旨
刑法上の「傷害」とは、他人の健康状態を不良に変更するなど生活機能に障害を与える場合を包含する、人の体躯の完全性を害することをいう。擦過傷等の軽微な身体的損害であっても、生活機能の障害や生理的機能の侵害が認められる限り傷害にあたる。
問題の所在(論点)
刑法204条の傷害罪(および致死傷罪の結果的加重犯)における「傷害」の定義。特に、治療期間が短く外傷も軽微な擦過傷が「傷害」に該当するか。
規範
刑法上の「傷害」とは、人の体躯の完全性を害することをいい、これには他人の健康状態の不良変更等、生活機能に障害を与える場合を包含する。
重要事実
被告人らは、共謀して被害者に対し暴行を加え、被害者の左耳殻後部、右上肢前面、および左右上腿部といった全身十数箇所に、治療に約一週間を要する擦過傷(かすり傷)を負わせた。弁護人は、このような擦過傷が刑法上の傷害にあたるか否かを争った。
あてはめ
本件における被害者の傷は、左耳、腕、脚などの広範にわたる十数箇所の擦過傷であり、完治までに約一週間の加療を要するものである。これは、単なる形式的な外傷にとどまらず、人の身体の生理的機能に障害を与え、体躯の完全性を害したといえる。したがって、たとえ擦過傷であっても、健康状態を不良に変更した以上、刑法上の傷害に該当すると解される。
結論
治療一週間を要する十数箇所の擦過傷は、刑法上の傷害にあたるため、強姦致傷罪(判示当時)の成立を認めた原判決に違法はない。
実務上の射程
傷害の定義として「生理的機能障害説」を確立した古典的な判例である。答案上では、暴行の結果が軽微な場合に、生理的機能の侵害があることを論証するための定義(規範)として引用する。失神、処女膜裂傷、PTSD、性病感染、疲労倦怠など、外傷を伴わない機能侵害の場面でも本規範を活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)4384 / 裁判年月日: 昭和30年7月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強姦の過程で生じた処女膜粘膜剥脱等の軽微な損傷であっても、刑法上の「傷害」に該当し、強姦致傷罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が被害者に対して強姦行為に及んだ際、その過程で被害者に対し、処女膜粘膜剥脱等の損傷を負わせた。弁護人は、当該損傷は軽微であり、強姦致傷罪における「致傷(傷害)」には当…