所論は原判決の傷は極めて輕微の傷で身体傷害とはいえないというのであるが、輕微な傷でも人の健康状態に不良の變更を加えたものである以上、刑法にいわゆる傷害と認むべきであるから、原判決が原判示の傷を傷害と認め被告人の所爲をもつて刑法第一八一條に問擬したのは正常で論旨は理由がない。
輕微な傷と刑法にいわゆる「傷害」の意義
刑法181條
判旨
刑法上の傷害とは、人の健康状態に不良の変更を加えることをいい、たとえ放置すれば自然に治癒する程度の軽微な傷であっても、これに該当する。
問題の所在(論点)
放置すれば自然に治癒する程度の軽微な裂創や爪掻傷が、刑法上の「傷害」に該当するか。
規範
刑法における「傷害」とは、人の生理的機能を毀損し、健康状態に不良の変更を加えることを指す。その傷が極めて軽微であり、特段の治療を施さず放置しておいても自然に治癒する程度のものであったとしても、人の健康状態に変更を加えた以上、傷害概念に含まれる。
重要事実
被告人は、被害者の口を押さえ、モンペやズロースを引き下げる等の暴行を加えた。その結果、被害者は裂創や爪掻傷を負った。当該傷害の程度は、医師の診断によれば全治まで約一週間を要するものであったが、弁護人は、当該傷は放置しても治る極めて軽微なものであるから、刑法上の傷害には当たらないと主張して上告した。
あてはめ
本件における被害者の傷は、裂創や爪掻傷であり、部位や態様から見れば軽微なものといえる。しかし、全治まで約一週間を要するものである以上、被害者の身体の完全性を害し、生理的機能に影響を与えたことは否定できない。放置しても治癒する程度であることは、健康状態に不良の変更が加えられたという事実を左右するものではなく、刑法上の傷害として評価されるべき健康状態の変更に該当するといえる。
結論
たとえ軽微な傷であっても、人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上、刑法上の傷害に該当する。したがって、被告人の所為について(強姦致傷罪等の)傷害の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
傷害の定義として「人の生理的機能の毀損」を採る通説的見解を裏付ける判例である。答案上は、本判例を根拠に、臨床医学的な治療の必要性にかかわらず、表皮の剥離や軽微なあざであっても「傷害」に当たり得ることを示す際に活用する。ただし、可罰的違法性の観点から極めて微細なものは除外される余地があるが、本判例は「全治一週間」程度の事案において傷害性を肯定する基準として機能する。
事件番号: 昭和45(あ)851 / 裁判年月日: 昭和46年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強姦致傷罪(現在の強制性交等致傷罪)における「傷害」は、刑法204条の傷害と同義であり、軽微な傷であっても人の健康状態を不良に変更するものであればこれに該当する。 第1 事案の概要:被告人が強姦(現:強制性交等)に際して、被害者に負わせた傷が、強姦致傷罪の「傷害」に該当するかが争われた。弁護側は、…