しかし被告人の前科は、罪となるべき事實ではなく、單なる情状に過ぎないから、これについて厳格を證據説明を必要としないものであるのみならず原判決が證據として採用したのは被告人の原審公判廷における供述である。さうして公判廷における被告人の供述が憲法第三八條第三項にいわゆる本人の自白中に含まれないことは既に當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一六八號同年七月二九日大法廷判決昭和二三年(れ)第一五四四號同二四年四月二〇日大法廷判決)に示されている通りである。
單なる情状に過ぎない前科を被告人の公判廷における供述だけで認定することの適否
刑訴應急措置法10條3項,舊刑訴法336條,舊刑訴法360條1項,憲法38條3項
判旨
被告人の前科は「罪となるべき事実」ではなく単なる情状に関する事実にすぎないため、厳格な証明を必要とせず、またその言渡日時の判示がなくても違法ではない。さらに、公判廷における被告人の自白は憲法38条3項の「本人の自白」に含まれず、補強証拠なしに有罪の基礎とすることができる。
問題の所在(論点)
1. 被告人の前科は「罪となるべき事実」にあたり、厳格な証明および具体的な日時の判示を要するか。 2. 公判廷における被告人の自白は、憲法38条3項の補強法則(補強証拠なしに有罪とされない原則)の適用を受けるか。
規範
1. 前科の性質と証明:被告人の前科は、犯罪構成要件に該当する「罪となるべき事実」ではなく、量刑の判断材料となる「情状」に関する事実にすぎない。したがって、厳格な証明(証拠能力ある証拠による適法な証拠調べ)を必要としない。 2. 補強法則の適用範囲:憲法38条3項および刑事訴訟法319条2項にいう「自白」に、公判廷における被告人の供述は含まれない。
重要事実
被告人が起訴された事件において、原審は被告人の前科を認定するにあたり、厳格な証拠調べの手続を経ることなく、また判決文において前刑が言渡された具体的な日時を特定して判示しなかった。さらに、原審は被告人の公判廷における供述を証拠として採用し、有罪の認定を行った。これに対し被告人側が、前科の認定手続の違法や、公判廷の自白のみによる有罪認定の憲法違反を主張して上告した事案である。
あてはめ
1. 前科の認定について:前科は犯罪の成否自体を基礎付ける事実ではなく、刑の量定に影響を及ぼす情状にすぎない。よって、犯罪事実の認定に要求される厳格な証拠説明は不要であり、前刑の日時が詳細に判示されていなくても、事実誤認や審理不尽の違法はないというべきである。 2. 自白の補強法則について:最高裁判例の趣旨に照らせば、裁判官の面前でなされる公判廷の供述は、その任意性と信憑性が担保されているため、補強証拠を必要とする「本人の自白」には該当しない。原判決が公判廷での被告人供述を証拠として有罪認定したことは適法である。
結論
被告人の前科認定に違法はなく、また公判廷の自白を補強証拠なしに証拠として採用した原判決に憲法違反の点はないため、上告を棄却する。
実務上の射程
実務上、累犯加重などの構成要件に関わる場合を除き、情状としての前科の認定には自由な証明で足りる。また、公判廷自白の補強証拠の要否については、刑事訴訟法319条2項が現行法として「公判廷におけるか否かを問わず」自白のみでの有罪を禁じている点に注意が必要だが、本判決は憲法38条3項の解釈として、公判廷自白が補強法則の射程外であることを示した重要な先例である。
事件番号: 昭和25(あ)2583 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項にいう「本人の自白」には、判決裁判所における公判廷での被告人の供述は含まれない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件において起訴され、第一審の公判廷で自白を行った。第一審裁判所は、この公判廷での供述を主要な証拠として有罪判決を下した。これに対し、被告人側は、公判廷での自白のみを証拠と…