旧刑訴法第六九條第三項によれば公判に關與した檢事の官氏名を記載すべきことを要求しているのであるから、前示の如く判決に檢事の官名遺脱したことは右法條に違反したものであることは所論の通りである。然し右のような法律違反は絶對的上告理由に該らないのであるから、その違反が裁判に影響を及ぼす虞れあるときに限り上告の理由とすることができるのである。従つて右のような違法があつても事實上檢事が公判に關與し、被告事件の陳述をなす等公判審理の手續が適法に施行された以上、その違法は判決に影響を及ぼさないことが明白であるからこれを上告の理由となすことはできないのである。
判決書に公判に關與した檢事の官名を遺脱した違法と上告理由
舊刑訴法69條3項,舊刑訴法441條
判旨
判決書に検事の官名を記載しなかった違法があっても、検事が公判に関与し適法に審理が施行された以上、判決に影響を及ぼさない。また、公判廷における被告人の自白は、憲法38条3項の「本人の自白」に含まれず、補強証拠を要しない。
問題の所在(論点)
1. 判決書に立会検事の官名記載を欠くことが、判決に影響を及ぼすべき法令違反となるか。2. 公判廷における被告人の自白に、憲法38条3項および刑事訴訟法上の補強証拠が必要か。
規範
1. 判決書における検事の官名記載遺脱は、絶対的上告理由に該当しないため、その違反が裁判に影響を及ぼす恐れがあるときに限り破棄理由となる。事実上検事が公判に関与し適法に審理がなされた場合には、当該違反は判決に影響を及ぼさない。2. 公判廷における被告人の自白は、憲法38条3項および刑事訴訟法上の補強証拠を要する「自白」には当たらない。
重要事実
原判決の判決書において、公判に関与した検事の氏名は記載されていたが、官名の記載が遺脱されていた。また、原判決は引用した農林省令の番号を誤記(正誤前の104号を記載)していた。さらに、被告人は公判廷で自白をしていたが、これに基づき有罪判決が下されたことに対し、被告人側が補強証拠の欠如等を理由に上告した。
あてはめ
1. 検事の官名記載漏れについて、公判調書によれば検事Aが実際に立ち会い、被告事件の陳述を行うなど審理手続は適法に施行されている。したがって、官名のみの遺脱は判決の結果に影響を及ぼさない。2. 省令番号の誤記についても、官報の正誤前を参照した明白な誤記にすぎず、判決の効力に影響しない。3. 公判廷での自白については、判例(昭和23年7月29日大法廷判決)の趣旨に照らし、補強証拠を要する「本人の自白」には当たらないため、自白のみで有罪としても憲法・法律違反はない。
結論
本件上告を棄却する。判決書に検事の官名記載がないことや公判廷での自白に基づく有罪判決に違法はない。
実務上の射程
公判廷自白の補強証拠不要説を維持した判例である。現行法下(刑訴法319条2項)では「公判廷における自白であると否とを問わず」補強証拠が必要とされているため、自白の補強証拠に関する部分は現在の実務上の射程を失っている点に注意が必要。判決書の記載不備と判決への影響に関する判断は、形式的過誤の処理として参考になる。
事件番号: 昭和27(あ)5169 / 裁判年月日: 昭和28年7月2日 / 結論: 棄却
検察官は被告人AについてはBの供述調書を証拠として提出していない。それ故この供述調書を被告人Aの有罪の証拠として掲げたことは所論のとおり違法である。しかし、右供述調書の内容は被告人Aの公訴事実には全然関係のないものであり、その余の列挙証拠によつて被告人Aの有罪事実の認定は十分可能なのであるから、右違法は判決に影響を及ぼ…