所論九月六日の原審公判期日の調書には裁判長が次回期日を一〇月一一日と宣した旨明記されていることは記録上明らかなところであつて、所論に主張するような理由をもつてこの調書に明記された公判期日の記載を誤りなりとすることのできないことは舊刑訴法六四條の規定に照して明らかなところである。されば所論九月六日の公判期日に出頭していた辯護人折田清一は同日の公判廷において、裁判長から次回期日を一〇月一一日と告知されたものといわなければならない。
裁判長が告した次回期日と公判調書の證明力
舊刑訴法64條,舊刑訴法320條1項
判旨
被害者の死亡時刻は、犯行の同一性に影響を与えない限り、罪となるべき事実(犯罪構成要件)に該当しないため、証拠による厳格な証明を要しない。また、被告人の有利な事情を考慮した上でもなお執行猶予を付さない判断は、裁判所の裁量に属する。
問題の所在(論点)
被害者の詳細な死亡時刻が「罪となるべき事実」として証拠による証明を要するか。また、有利な情状が存在する場合に執行猶予を付さない判断が裁量の逸脱・審理不尽となるか。
規範
1. 犯罪の同一性に影響を及ぼさない事実は、罪となるべき事実に該当せず、証拠によって説明(厳格な証明)を要する事項ではない。 2. 刑の執行猶予を言い渡すか否かは、事実審裁判所の広範な裁量に委ねられており、被告人に有利な情状がある場合でも、猶予を付さないことが直ちに審理不尽の違法となるわけではない。
重要事実
被告人は、被害者Cの死亡時刻について、原判決が「午後2時5分」とした点は誤りであり(実際は午前2時5分)、死因の認定や証拠調べも不十分であると主張した。また、本件犯行が偶発的で父子愛に基づくものであること、葬儀の執行や香料の贈呈など誠意ある対応をしたことを挙げ、執行猶予を付さないのは不当であると訴えて上告した。
あてはめ
被害者の死亡時刻が午前か午後かは、本件犯行の同一性に何ら影響を及ぼすものではない。したがって、死亡時刻は「罪となるべき事実」そのものではなく、証拠によりこれを厳密に説明する必要はない。また、犯行の偶発性や事後の誠意ある対応といった有利な情状が認められるとしても、それを踏まえた上で執行猶予を付さないことは裁判所の裁量の範囲内であり、審理不尽の違法はない。
結論
死亡時刻の誤記や詳細な認定の欠如は判決に影響を及ぼさず、執行猶予の不付与も裁判所の合理的な裁量の範囲内であるとして、上告を棄却した。
実務上の射程
刑事訴訟において、訴因や罪となるべき事実の特定がどの程度詳細に求められるかの基準を示す。犯行の特定(同一性)に不可欠でない付随的事実(時刻の微差等)については、厳格な証明が不要であることを論証する際に用いる。また、量刑(特に執行猶予)に関する裁判所の広範な裁量を裏付ける判例として機能する。
事件番号: 昭和25(あ)2055 / 裁判年月日: 昭和26年6月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が事実誤認、擬律錯誤、量刑不当の主張に留まる場合は、刑訴法405条所定の上告理由に当たらない。また、記録を精査しても判決に影響を及ぼすべき重大な誤り等の職権破棄事由が認められないときは、上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:被告人が原判決の事実認定、法律の適用(擬律)、および量刑の不…