一 記録を調べてみると、第一審裁判所は昭和二三年九月八日の公判において所論AおよびBの兩名を證人として訊問していることが明らかである。それゆえ、被告人に對してはすでにこれらの證人を公判期日において訊問する機會を與えているのであるから、原審が前記兩名の證人訊問申請を却下しながらこれら兩名に對する檢事の聽取書を證據に採用しても刑訴應急措置法第一二條に違反するものではない。(昭和二四年(れ)第一三五八號同年八月二日當裁判所第三小法廷判決、昭和二三年(れ)第一七一八號同二四年三月三一日當裁判所第一小法廷判決)。また第三者の供述を證據とするにはその者を公判において證人として必ず訊問しなければならないものではなく、公判廷外における聽取書をもつて證人に代えることを憲法第三七條は許さないものではないことについても當裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第一六七號同年七月一九日大法廷判決)。されば、原判決は憲法第三七條第二項に違反しない。 二 刑訴應急措置法第二〇條および第二一條は、舊刑訴法によつて認められている檢察官の附帶控訴に關する規定を癈止したものではない。
一 原判決が證據に採つた聽取書の供述者につき原審はその證人訊問申請を却下していても、第一審公判で右の供述者を尋問する機會を被告人に與えている場合と刑訴應急措置法第一二條第一項及び法憲第三七條第二項 二 刑訴應急措置法第二〇條及び同第二一條により檢察官の附帶控訴の制度は癈止されたか
刑訴應急措置法12條1項,刑訴應急措置法20條,刑訴應急措置法21條,憲法37條2項,舊刑訴法399條
判旨
被告人に対し公判期日において証人を訊問する機会が与えられていたのであれば、その後の手続で当該証人の検事調書を証拠採用しても、憲法37条2項等の証人審問権を侵害しない。
問題の所在(論点)
被告人が一度は公判廷で訊問する機会を得た証人について、その後の審級において直接訊問を行わずに検事調書を証拠採用することが、憲法37条2項の証人審問権(および当時の刑訴応急措置法12条)に違反するか。
規範
憲法37条2項が保障する証人審問権の趣旨は、証拠とされる供述の内容を公判廷における直接の訊問を通じて吟味する機会を保障する点にある。したがって、既に公判期日において当該証人を訊問する機会が与えられていた場合には、その供述を記載した書面(検事調書等)を証拠として採用することは、同条の要請に反しない。また、第三者の供述を証拠とするにあたり、必ずしも常に公判廷で直接訊問しなければならないわけではなく、適切な手続を経た書面による証拠調べも憲法上許容される。
重要事実
被告人は、他人のために保管中であった現金5000円を横領した等の罪に問われた。第一審(昭和23年9月8日)において、証人AおよびBが公判期日に出頭し、証人訊問が実施された。これにより被告人側には証人を訊問する機会が与えられた。その後、原審(控訴審)において、裁判所は弁護人によるAおよびBの証人訊問請求を却下する一方で、検察官が作成した両名の聴取書(検事調書)を証拠として採用した。これに対し被告人側が、証人審問権の侵害等を理由に上告した事案である。
あてはめ
本件において、第一審の公判期日には証人AおよびBが実際に出頭し、訊問が実施されている。この事実から、被告人には当該証人らに対して直接問い質し、供述の真実性を弾劾する機会が既に十分に与えられていたといえる。このように一度適法に訊問の機会が提供された以上、その後の原審において再度直接訊問を行うことなく、検察官作成の聴取書を証拠として採用したとしても、証人審問権の本質的な保障は損なわれていない。したがって、原審の証拠採用手続に憲法違反や法の逸脱は認められない。
結論
被告人に証人を訊問する機会が一度与えられていた以上、その証人の検事調書を証拠に採用しても憲法37条2項には違反しない。
実務上の射程
伝聞例外(刑訴法321条以下)の合憲的根拠を示す際、憲法37条2項が「絶対的な対面」を要求するものではなく「訊問の機会」の保障を主眼とする点を確認するために用いる。特に、前の公判手続で証人訊問が行われた場合の供述証拠の利用の可否を論ずる際の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和25(れ)274 / 裁判年月日: 昭和25年5月18日 / 結論: 棄却
記録によれば、所論Aは既に第一審公判廷に證人として喚問され被告人に對し同證人を審問する機會を充分に與えたものであるから、原審において重ねて同人を喚問しなかつたからといつて憲法の條項に反するとはいえない。