昭和二二年勅令第九號は婦女の個人自由の伸張を圖るため「暴行又は脅迫によらないで婦女を困惑させて賣淫させた者」(一條)及び「婦女に賣淫をさせることを内容とする契約にしたもの」(二條)に對する處罰を定めている。所論は、この後者の場合において「當該婦女側には契約なかりせば賣淫せざりしなるべしとの關係の存すること」を絶對必要要件とすると主張している。これは一種の獨創的な興味ある法律見解を提示したものと云うことができよう。しかしながら「婦女に賣淫をさせることを内容とする契約」の當事者の一方には必ずしも常に賣淫させられる婦女があるというわけではなく、該契約の當事者の双方が賣淫をさせられる婦女以外の男女であることもあり得る。そして、かゝる契約は、その當事者が誰であるにせよ、結局において直接又は間接に多かれ少かれ婦女を束縛又は強制して賣淫をさせる結果を招來するに至るものであつて、婦女の個人自由の伸張を阻害することは昭として白日を見るよりも明らかである。されば、所論のごとき必要要件の有無にかゝわらず婦女に賣淫をさせることを内容とする契約をした者は、一様に處罰さるべきものと云わねばならぬ。
昭和二二年勅令第九號第二條の法意
昭和22年勅令9號2條
判旨
婦女に売淫をさせることを内容とする契約を処罰する目的は、婦女の個人の自由の伸張を図る点にある。したがって、当該婦女に「契約がなければ売淫しなかった」という関係が存することを要件とせず、契約をした者は一様に処罰の対象となる。
問題の所在(論点)
昭和22年勅令第9号2条にいう「婦女に売淫をさせることを内容とする契約をした者」の成立要件として、当該婦女側に「契約がなければ売淫しなかったであろう」という主観的・因果的な関係が存在することを必要とするか。
規範
本規定の趣旨は婦女の個人の自由の伸張を図る点にある。かかる契約は当事者の如何にかかわらず、結果として婦女を束縛・強制して売淫させる結果を招来し、個人の自由を阻害する。したがって、婦女が売淫常習者であるか否か、あるいは契約の存在が売淫の絶対的条件であったか否かを問わず、客観的に婦女に売淫をさせる内容の契約を締結したことをもって足りる。
事件番号: 昭和25(あ)2801 / 裁判年月日: 昭和27年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】婦女に売淫させることを内容とする契約を締結する罪は、当該契約が成立した時点で既遂に達し、婦女の自由意思による売淫の有無は犯罪の成立を左右しない。 第1 事案の概要:被告人は、Bとの間で、売春による収益を折半するとの約束の下、Bに売淫させることを内容とする契約を締結した。弁護人は、Bが自由意思によっ…
重要事実
被告人は、婦女に売淫をさせることを内容とする契約を締結した。これに対し弁護側は、当該婦女において「その契約がなければ売淫しなかった」といえる関係(因果関係的な制約)が存在することが処罰の絶対必要要件であると主張し、売淫常習者等との契約は処罰されないとの見解を示して上告した。
あてはめ
本件契約は、当事者が誰であれ、直接または間接に婦女を束縛して売淫させる結果を招くものであり、個人の自由を阻害することは明らかである。仮に売淫常習者との契約を処罰の対象外とすれば、同条の取締目的を達成できなくなる。したがって、弁護人が主張するような婦女側の主観的条件は、同条の犯罪成立に影響を及ぼさない。
結論
婦女側に「契約がなければ売淫しなかった」という関係が存在しなくとも、売淫をさせる内容の契約を締結すれば同罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、売春助長行為等の処罰規定において、被害者(婦女)側の既存の属性や売淫の意思の有無が、行為者の処罰を妨げないことを示したものである。現在においても、性的搾取を防止する法規範の解釈において、被害者の「承諾」や「常習性」が保護の不必要性を意味しないという議論の基礎となり得る。
事件番号: 昭和27(あ)6755 / 裁判年月日: 昭和28年5月7日 / 結論: 棄却
昭和二二年勅令第九号第二条にいわゆる「婦女に売淫をさせることを内容とする契約」とは、その契約の相手方が当該婦女であると否とを問わず結局において直接又は間接に多かれ少かれ婦女を束縛または強制して売淫をさせる結果を招来し婦女の個人的自由の伸張を阻害すべき内容を有する契約を指称するものである。
事件番号: 昭和25(あ)2689 / 裁判年月日: 昭和26年6月28日 / 結論: 棄却
昭和二二年勅令第九号第二条違反の罪を判示するには、婦女に売淫させることを内容とする契約をしたことを示せば足り、その具体的契約内容すなわち、報酬の有無、契約期間、売淫の場所等を判示する必要はない。
事件番号: 昭和29(あ)3497 / 裁判年月日: 昭和32年9月27日 / 結論: 棄却
一 昭和二二年勅令第九号第二条にいう「売淫」は、対価を受け、または受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいうものと解すべきである。 二 法律上の妻または事実上の妻でなくして、主として妻帯の男性から経済上の援助を受けて、これと性的結合関係を継続する女、いわゆる妾の斡旋はそれが特定の男女間に関する限り右勅令第二条の対…
事件番号: 昭和26(あ)3760 / 裁判年月日: 昭和28年5月7日 / 結論: 棄却
昭和二二年勅令第九号第二条にいわゆる「婦女に売淫をさせることを内容とする契約」は婦女の自由意思による売淫の場合をも処罰する趣旨である。