昭和二二年勅令第九号第二条にいわゆる「婦女に売淫をさせることを内容とする契約」は婦女の自由意思による売淫の場合をも処罰する趣旨である。
昭和二二年勅令第九号第二条の注意
昭和22年勅令9号2条
判旨
婦女に売淫をさせることを内容とする契約の締結を処罰する規定は、婦女の自由意思による場合であっても、その個人の自由を阻害し公共の福祉に反するため適用される。また、故意の成立に違法性の意識は不要であり、法の不知は罪の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
1. 売淫契約の締結を処罰する規定は、婦女の自由意思に基づく契約にも適用されるか。2. 犯意の成立に「違法性の意識」は必要か。
規範
1. 婦女に売淫をさせる契約の禁止規定は、婦女を直接又は間接に束縛・強制し、その個人の自由の伸長を阻害するおそれがあるため、婦女の自由意思による契約であっても適用される。2. 犯意(故意)の成立には、自己の行為が法律により禁じられていることの認識(違法性の意識)を必要とせず、単に刑罰法令を知らなかったとしても罪は成立する。
重要事実
被告人は、昭和22年勅令第9号(ポツダム宣言の受諾に伴い発せられる命令に関する件に基く「婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令」)第2条違反の罪に問われた。弁護人は、同条が婦女を強制して売淫させた場合のみを処罰対象とするものであること、及び被告人には違法性の認識が欠けていたため犯意が認められないことを主張して上告した。
事件番号: 昭和27(あ)6755 / 裁判年月日: 昭和28年5月7日 / 結論: 棄却
昭和二二年勅令第九号第二条にいわゆる「婦女に売淫をさせることを内容とする契約」とは、その契約の相手方が当該婦女であると否とを問わず結局において直接又は間接に多かれ少かれ婦女を束縛または強制して売淫をさせる結果を招来し婦女の個人的自由の伸張を阻害すべき内容を有する契約を指称するものである。
あてはめ
1. 婦女に売淫をさせることを内容とする契約は、その性質上、多かれ少なかれ婦女を束縛・強制する結果を招来し、個人の自由を阻害するものである。したがって、第一条との対比からも、自由意思による契約を排除する理由はない。2. 違法性の認識は犯意の要素ではないとするのが当裁判所の確立した判例であり、本件における被告人の主張は単なる「刑罰法令の不知」にすぎず、故意を阻却しない。
結論
婦女の自由意思による売淫契約であっても処罰規定の対象となり、また違法性の認識がなくても犯意は認められるため、上告は棄却される。
実務上の射程
現代の刑法学における「故意」と「違法性の意識」の峻別(責任説等)の議論において、判例が伝統的に「違法性の意識不要説(または不知は宥恕せず)」の立場を採っていることを示す重要資料である。また、公序良俗に反する契約の刑事的規制の正当化根拠として「自由の不当な拘束」を挙げている点も実務上参考になる。
事件番号: 昭和24(れ)2905 / 裁判年月日: 昭和25年3月16日 / 結論: 棄却
昭和二二年勅令第九號は婦女の個人自由の伸張を圖るため「暴行又は脅迫によらないで婦女を困惑させて賣淫させた者」(一條)及び「婦女に賣淫をさせることを内容とする契約にしたもの」(二條)に對する處罰を定めている。所論は、この後者の場合において「當該婦女側には契約なかりせば賣淫せざりしなるべしとの關係の存すること」を絶對必要要…
事件番号: 昭和25(あ)2801 / 裁判年月日: 昭和27年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】婦女に売淫させることを内容とする契約を締結する罪は、当該契約が成立した時点で既遂に達し、婦女の自由意思による売淫の有無は犯罪の成立を左右しない。 第1 事案の概要:被告人は、Bとの間で、売春による収益を折半するとの約束の下、Bに売淫させることを内容とする契約を締結した。弁護人は、Bが自由意思によっ…
事件番号: 昭和25(あ)2689 / 裁判年月日: 昭和26年6月28日 / 結論: 棄却
昭和二二年勅令第九号第二条違反の罪を判示するには、婦女に売淫させることを内容とする契約をしたことを示せば足り、その具体的契約内容すなわち、報酬の有無、契約期間、売淫の場所等を判示する必要はない。
事件番号: 昭和28(あ)3215 / 裁判年月日: 昭和28年11月19日 / 結論: 棄却
本件犯罪(昭和二七年五月四日)に適用のある昭和二七年法律八一号により法律として効力を有する昭和二二年勅令九号第二条は、婦女に売淫をさせることを内容とする契約をした者を処罰する規定であり、職業安定法六三条二号は、公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介等を行つた者又はこれらに従事した者を罰する規定であつ…