論旨第一點、第三點は第二審裁判所において辯護人がした盜難被害届の署名人Aの證人喚問の申請を却下しながら、同裁判所が右盜難被害届の記載を證據に採つて斷罪したのは刑訴應急措置法第一二條第一項、憲法第三七條第二項に違反するものであるにかかわらず原上告審が右第二審判決を是認したのは前示各條項に違反するものであるというのである。しかし第二審公判廷において辯護人が證人として右Aの喚問を申請した唯一の趣旨が「被害金額を明にする爲め」であつたことは記録(一〇一丁裏)上明らかなところである。そして第二審判決が所論の盜難被害届を證據に採つたのは、判示物件の窃盜の事實を認定する一資料に供したのにとどまつて、被害金額の認定資料としていないことは第二審判決の判示において被害金額の認定が全然なされていないことから窺知できる、そして盜犯において被害品の價格のごときは特別の場合を除いては犯罪の内容を特定せしめるに必要欠くべからざる要素であるということはできない。さればかかる被害品の價格についての證人申請を却下しながら價格に關係のない事實について喚問申請の却下された證人の提出した被害届の記載を證據に採つたからといつて第二審判決は亳も前記各條項並びに論旨第二點に引用する當裁判所の判例に違反するものではないといわねばならぬ。
盜難被害届の被害品の價額についての證人申請を却下しながら同被害届のそれ以外の記載を採證した判決と憲法第三七條第二項
憲法37條2項,刑訴應急措置法12條1項
判旨
被告人が申請した証人の尋問を却下しながら、当該証人が作成した書面を証拠として採用することは、証拠の証明対象と尋問申請の趣旨が異なる場合には、憲法37条2項に反しない。
問題の所在(論点)
被告人が申請した証人の尋問を却下しながら、その証人が作成した被害届を証拠として採用することが、憲法37条2項および刑事訴訟法上の証拠法則に違反しないか。
規範
被告人に保障される証人尋問権(憲法37条2項)との関係で、裁判所がある証人の尋問申請を却下しつつ、その証人が作成した書面を証拠として採用することが許されるかは、証人尋問が申請された趣旨・目的と、実際に書面により認定しようとする事実が同一であるか否かによって判断される。認定事実が犯罪の内容を特定するに不可欠な要素でない事項に関するものであり、かつ尋問の趣旨がその限定的な事項に関するものであるならば、証人尋問を経ずに当該書面を他の事実認定の資料とすることは適法である。
重要事実
被告人の窃盗事件において、弁護人は盗難被害届の署名人Aを「被害金額を明らかにするため」に証人尋問することを申請したが、第二審裁判所はこれを却下した。一方で、裁判所は同Aが作成した盗難被害届を、窃盗の事実を認定する資料として採用した。なお、被害金額の認定はなされておらず、判示物件の窃盗事実のみが認定された。
あてはめ
本件で弁護人がAの証人尋問を申請した唯一の趣旨は「被害金額を明らかにするため」であった。これに対し、裁判所が被害届を証拠として用いたのは、窃盗事実自体の認定資料としてであり、被害金額の認定には用いていない。窃盗罪において被害品の価格は、特段の事情がない限り犯罪の内容を特定するために必要不可欠な要素ではない。したがって、申請の趣旨(価格の立証)と裁判所の証拠採用目的(窃盗事実の立証)が異なり、かつ前者が不可欠な要素でない以上、尋問を却下しつつ書面を採用しても、被告人の防禦権を不当に侵害するものではないといえる。
結論
本件の証拠採用の手続に違法はなく、憲法37条2項に違反しない。
実務上の射程
証人尋問の代替として書面を用いる際の限界を示す。申請却下と書面採用が併存しても、立証事項が異なれば直ちに違憲・違法とはならないことを示す実務上の先例である。ただし、伝聞法則との関係や、立証事項が実質的に重なる場合の防禦権侵害の有無については、慎重な検討を要する。
事件番号: 昭和26(あ)1355 / 裁判年月日: 昭和26年10月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が申請した証人の取り調べの採否を決定することは事実審裁判所の専権に属し、裁判所が必要がないと判断して証人尋問を行わなかったとしても、憲法37条2項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人が特定の証人の尋問を裁判所に申請したが、事実審裁判所はこの証人尋問を行わないまま審理を終結した…