原判決に示されているように、判示のような出所不明確なアルコールを他に飲用として販賣讓渡するについては、信頼すべき確實な方法によつてその成分を検査し、飲用に供して差支えないかを一應確かめた上、飲用者の生命身体に不測の危害を起さしめないように注意すべき義務があるにも拘らず、被告人はこのような注意義務を怠つた結果右のアルコールに判示分量のメタノールを含有していることを認識せず、これを飲用として他人に販賣し、これを飲用した者を死亡するに至らしめたのであるから、被告人に過失の責任ありとした原判決の判斷は正當であつて、所論のような違法はない。論旨は理由がない。
アルコールを販賣する者の注意義務とその義務を怠り他人に販賣して飲用者を死に至らしめた者の責任
有毒飲食物等取締令1條,刑法210條
判旨
出所不明なアルコールを飲用として販売する際、信頼すべき方法で成分を検査し、飲用者の生命身体に危害を及ぼさないよう確認すべき注意義務がある。この義務を怠り、メタノール含有を認識せず販売して死亡させた場合、業務上過失致死罪等の過失責任を負う。
問題の所在(論点)
出所不明なアルコールを飲用として販売するにあたり、販売者にどの程度の成分検査・安全確認義務(注意義務)が課されるか、およびその義務違反が過失致死罪等の過失を構成するか。
規範
人の生命・身体に危険を及ぼすおそれのある物品を販売する者は、当該物品の性質や出所が不明確な場合には、信頼すべき確実な方法によってその成分を検査し、安全性を確認した上で販売に供すべき注意義務を負う。客観的に予見可能な危害を回避するために必要な措置を講じなかった場合、過失責任が認められる。
重要事実
被告人は、出所が不明確なアルコールを、飲用として他人に販売譲渡した。しかし、被告人は販売に際し、当該アルコールの成分を信頼すべき確実な方法で検査せず、飲用に供して差し支えないかを確認しなかった。その結果、当該アルコールに有害なメタノールが含有されていることを認識しないまま販売し、これを飲用した被害者数名をメタノール中毒により死亡させるに至った。
事件番号: 昭和23(れ)659 / 裁判年月日: 昭和23年11月25日 / 結論: 棄却
一 有毒飮食物等取締令第一條第一項の「飮食物」は、所論のごとく「販賣」の用に供する飮食物に限定すべき理由はない。 二 有毒飮食物等取締令第一條の「讓渡」が有償であるか無償であるかは同條違反罪の成否に關係がないから、その何れに屬するかを判示しなくとも審理不盡ということはできぬ。 三 製造元も明らかでなく、又その性質も判ら…
あてはめ
本件アルコールは出所が不明確であり、飲用すれば生命に危険を及ぼす可能性がある。このような物品をあえて販売する以上、被告人には信頼できる方法で成分を検査し、安全を確かめるべき高度な注意義務がある。被告人はこの検査を怠っており、メタノール含有を認識しなかったことについて過失があるといえる。また、被害者の死因がメタノール中毒であることは死体検視調書等から十分に証明されており、被告人の義務違反と被害者の死亡との間には因果関係も認められる。
結論
被告人は注意義務を怠った結果、飲用者に不測の危害を生じさせたものであり、過失の責任を免れない。したがって、被告人を過失犯として処断した原判決は正当である。
実務上の射程
本判決は、危険物の販売者における具体的予見可能性および結果回避義務の内容を判示したものである。特に、人体に直接摂取される物品の「出所不明」という事実が、高度な調査・検査義務を基礎付ける事情となる点において、実務上の過失認定の参考となる。
事件番号: 昭和22(れ)166 / 裁判年月日: 昭和23年3月13日 / 結論: 棄却
一 有毒飲食物等取締令第四條後段に「過失により違反したる者亦同じ」と規定したのは、過失に基く場合も亦故意に基く場合と同一の法定刑を以て處断するとの意であつて、其の法定刑の中懲役刑を以つて處斷するか罰金刑を以つて處斷するかは原審裁判所の自由裁量に委かされたところである。 二 近頃アルコール中にメタノールを含有するものがあ…
事件番号: 昭和25(れ)588 / 裁判年月日: 昭和25年12月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】メタノール含有アルコールの譲渡において、飲用の危険が明らかな場合には単なる警告だけでは足りず、譲渡自体を控えるべき注意義務がある。また、譲受人が第三者に分与して死亡させた結果についても、その分与が予見可能であれば譲渡人に過失致死罪の責任が認められる。 第1 事案の概要:被告人Aは、メタノールを含む…
事件番号: 昭和24(れ)327 / 裁判年月日: 昭和24年7月23日 / 結論: 棄却
一 しかし、酒類製造につきの兔許を受けない者の製造したアルコール含有飮料品が往々にしてメタノール等の有毒物を含有し、人の生命健康に有害危險なものがあることは既に公知の事實である。從つて飲食物の販賣を業とする者は正規の配給所から買入れたものでない等酒類製造兔許を受けた者の製造したものであることが明らかでない酒精含有飮料品…
事件番号: 昭和23(れ)566 / 裁判年月日: 昭和23年8月11日 / 結論: 棄却
一 近時アルコール中に一ミリグラムを超えるメタノールを含有するいわゆるメチルアルコールを飮用して生命身體に危害を受けた事例は頻々として新聞紙上其の他にも報道せられかかる飮料が危險物であることは一般通常人に知れ渡つているものと解すべきである。それ故該飮料の製造元も明らかでなく又その性質も判然としていない。アルコールを飮料…