一 しかし、酒類製造につきの兔許を受けない者の製造したアルコール含有飮料品が往々にしてメタノール等の有毒物を含有し、人の生命健康に有害危險なものがあることは既に公知の事實である。從つて飲食物の販賣を業とする者は正規の配給所から買入れたものでない等酒類製造兔許を受けた者の製造したものであることが明らかでない酒精含有飮料品を飮用に供する目的で他に讓渡する場合には豫め化學的檢査を受けその有毒でないことを確かめる業務上の注意義務があることは條理上當然のことである。 二 懲役と罰金を併科すべき被告人の情状は、必ずしも具体的に判決に明示することを要しない。 三 條理上當然の注意義務のあることについては證據を必要としないのであるから原判決がその證據を示さなかつたことは當然である。
一 飮食物を販賣する者の業務上の注意義務 二 懲役と罰金を併科すべき情状を判決に明示することの要否 三 注意業務についての證據の要否
有毒飮食物等取締令第1條,刑法211條,旧刑訴法360條第1項,舊刑訴法360條第1項
判旨
飲食物の販売を業とする者が、正規の配給所経由でない等、免許を受けた者の製造であることが不明な酒精含有飲料を譲渡する場合、予め化学的検査等により有毒でないことを確かめる業務上の注意義務を負う。
問題の所在(論点)
飲食物の販売業者が、出自不明のアルコール飲料を販売するに際し、化学的検査を行うべき業務上の注意義務を負うか。また、売主の説明への信頼や試飲をもって、当該注意義務を尽くしたといえるか。
規範
飲食物の販売を業とする者は、その提供する酒精含有飲料が製造免許を受けた者の製品であることが明らかでない場合には、人の生命・健康に対する有害危険性を排除するため、譲渡に際して予め化学的検査を受け、有毒でないことを確認すべき業務上の注意義務を負う。この義務は条理上当然に認められ、売主の言辞を信頼することや試飲のみでは、当該義務を果たしたことにはならない。
重要事実
事件番号: 昭和24(れ)2486 / 裁判年月日: 昭和25年2月28日 / 結論: 棄却
原判決に示されているように、判示のような出所不明確なアルコールを他に飲用として販賣讓渡するについては、信頼すべき確實な方法によつてその成分を検査し、飲用に供して差支えないかを一應確かめた上、飲用者の生命身体に不測の危害を起さしめないように注意すべき義務があるにも拘らず、被告人はこのような注意義務を怠つた結果右のアルコー…
飲食物の販売を業とする被告人が、アルコール含有飲料を他に譲渡した際、当該飲料には有毒なメタノールが含まれていた。被告人は、売主から「絶対に大丈夫である」との言辞を受け、また自ら試飲も行っていたが、化学的検査等の客観的な安全確認措置は講じていなかった。被告人は生活困窮等の事情も主張していたが、原審は業務上過失致死傷罪(当時の刑法上の評価と推認されるが判決文に明記なし)の成立を認めた。
あてはめ
酒類製造免許を受けない者が製造したアルコール飲料は、メタノール等の有毒物を含有し得ることは公知の事実である。被告人は販売業者でありながら、正規配給所経由でない出自不明のアルコールを扱う際、売主の「大丈夫」という言葉を過信し、または不十分な試飲のみに頼ったに過ぎない。このような主観的な判断や簡易な確認では、人の生命・健康への危険を防止するための客観的確認として不十分であり、化学的検査を行うべき注意義務を尽くしたとは認められない。また、生活困窮等の主観的事情は、かかる重い注意義務の履行を期待できない事情(期待不可能性)にも当たらない。
結論
被告人には条理上、事前の化学的検査によって有毒でないことを確かめる業務上の注意義務が認められ、これを怠った以上、過失責任を免れない。
実務上の射程
業務上の注意義務の根拠を『条理』に求め、特に公衆衛生に関わる業種においては、専門的・客観的な確認手段(化学的検査等)を尽くすべきとする高度な注意義務を課している。現在の過失犯論における『予見可能性に基づく結果回避義務』の具体的具体化として、食品安全に関わる事案の論述に応用可能である。
事件番号: 昭和23(れ)659 / 裁判年月日: 昭和23年11月25日 / 結論: 棄却
一 有毒飮食物等取締令第一條第一項の「飮食物」は、所論のごとく「販賣」の用に供する飮食物に限定すべき理由はない。 二 有毒飮食物等取締令第一條の「讓渡」が有償であるか無償であるかは同條違反罪の成否に關係がないから、その何れに屬するかを判示しなくとも審理不盡ということはできぬ。 三 製造元も明らかでなく、又その性質も判ら…
事件番号: 昭和23(れ)1811 / 裁判年月日: 昭和24年4月23日 / 結論: 棄却
被告人はメチルアルコールを飮んで死んだり失明したりした人のあることを人から聞いて知つていた事實を確定した上、右のようなアルコールを飮用に供するために他人に賣渡すには專門家の鑑定を受けるなど科學的方法によつて法令の許容する率(一立方糎中一瓱以下)を超えたメタノールを含有するものではないことを確めた上でなければこれを賣渡し…
事件番号: 昭和24(れ)1955 / 裁判年月日: 昭和25年2月16日 / 結論: 棄却
一 判決の謄本の不備は、原判決に何等の影響を及ぼさないこというまでもなく、そして、原判決の原本には、裁判長判事中野保雄、判事亀崎尚弘、判事渡邊好人の署名捺印が存し、同判事三名はいずれも現存の裁判官であること公知の事實であるから、論旨は採ることができない。 二 所論報告書によれば、本件アルコール中に一立方センチメール中一…
事件番号: 昭和24(れ)2864 / 裁判年月日: 昭和25年3月30日 / 結論: 破棄差戻
一 原判決が有毒飲食物等取締令犯の事實認定をし、これに對し刑法第六六條を適用したこと並びに有毒飲食物等取締令第四條第三項に同條第一項の罪を犯した者には刑法第六六條を適用しない旨規定していることは所論のとおりである。されば原判決が本件につき刑法第六六條を適用したことは法令適用の明白な錯誤であつて、判決に影響を及ぼすおそれ…