一 原判決が有毒飲食物等取締令犯の事實認定をし、これに對し刑法第六六條を適用したこと並びに有毒飲食物等取締令第四條第三項に同條第一項の罪を犯した者には刑法第六六條を適用しない旨規定していることは所論のとおりである。されば原判決が本件につき刑法第六六條を適用したことは法令適用の明白な錯誤であつて、判決に影響を及ぼすおそれがあるから論旨はその理由があり、原判決は破棄を免れないものといわなければならない。 二 酒類等を販賣する飲食店業者は、客に販賣する酒類についてはこれを確實な業者から仕入れ若し多少でもメタノール等を含有する疑あるときは確實な試驗を經た上その含有しないことを確認して販賣すべき注意義務を有することは、一般公知の事實に屬するものである。 三 連續判を組成しない複數の犯罪行爲を判示するには、その行爲が同一罪質であり、手段方法等において共通していても、その各個の行爲の内容を一々具体的に判示し、更に、日時場所等を明らかにすることによつて一の行爲を他の行爲より區別し得る程度に特定し、もつて少くとも各個の行爲に對し法令を適用するに妨げない限度に判示することを要することは當裁判所大法廷の判例とするところである(昭和二三年(れ)第七六三號同二四年二月九日大法廷判決、判例集第三卷第二號第一四一頁以下參照)。しかるに原判決は「昭和二二年三月一八日頃から同二〇日頃迄の間被告人が判示店舗で顧客であるA外二十數名に對し判示飲食物合計四升八合位を多數回に亘り販賣したものである」と判示したに過ぎないのに、併合罪として處斷している。されば原判決は併合罪の個數、内容を特定しない理由不備の違法がある。
一 有毒飲食物等取締令第四條第一項の罪に對し刑法第六六條を適用した擬律錯誤の違法 二 酒類等を販賣する飲食店業者の注意義務と公知の事實 三 連續犯を組成しない複數の犯罪行爲の判示方法――併合罪の個數、内容を特定しない判決の理由不備の違法
有毒飲食物等取締令4條1項,有毒飲食物等取締令4條3項,有毒飲食物等取締令1條,刑法66條,刑法45條,舊刑訴法411條,舊刑訴法336條,舊刑訴法360條1項,舊刑訴法410條19號
判旨
飲食店業者が客に酒類を販売する際は、確実な業者から仕入れ、有害物質含有の疑いがあれば試験により安全を確認すべき注意義務を負う。また、併合罪として処断する場合には、各個の行為を特定し、法令の適用に支障がない限度で具体的に判示しなければならない。
問題の所在(論点)
1. 飲食店業者が酒類を販売する際、有害物質の混入に関してどのような注意義務を負うか。2. 複数の行為を併合罪として処断する場合、判決書においてどの程度の特定が必要とされるか。
規範
事件番号: 昭和24(れ)2486 / 裁判年月日: 昭和25年2月28日 / 結論: 棄却
原判決に示されているように、判示のような出所不明確なアルコールを他に飲用として販賣讓渡するについては、信頼すべき確實な方法によつてその成分を検査し、飲用に供して差支えないかを一應確かめた上、飲用者の生命身体に不測の危害を起さしめないように注意すべき義務があるにも拘らず、被告人はこのような注意義務を怠つた結果右のアルコー…
1. 業務上の注意義務:酒類等を販売する飲食店業者は、確実な業者から仕入れを行い、メタノール等の有害物質含有の疑いがあるときは、試験等を経て含有していないことを確認した上で販売すべき注意義務を負う。2. 罪数の判示:連続犯(旧法)を構成しない複数の犯罪行為を併合罪として処断する場合、同一罪質で手段が共通であっても、各行為の内容を具体的に示し、日時・場所等を明らかにすることで他の行為と区別できる程度に特定しなければならない。
重要事実
被告人は飲食店を経営していた。昭和22年3月18日から20日までの間、被告人の店舗において、顧客であるAほか20数名に対し、メタノール等を含有する疑いのある飲食物(酒類)を合計約4升8合、多数回にわたって販売した。原審はこれを併合罪として処断したが、各販売行為の個数や具体的な内容を特定せず、一括して判示していた。また、特別法により適用が排除されている刑法66条(酌量減軽)を誤って適用していた。
あてはめ
1. 注意義務について:酒類販売業者がメタノール混入の疑いがある酒を漫然と販売することは、公知の注意義務に反する。本件の「過失」は、確実な仕入れや試験による確認を怠ったことを指すと解される。2. 罪数の特定について:原判決は「A外二十数名に対し...多数回に亘り販売した」とするのみで、各販売行為を個別に特定していない。これでは各行為に対して法令を適用するのに十分な判示とはいえず、理由不備の違法がある。3. 法令適用について:有毒飲食物等取締令4条3項は刑法66条の適用を排除しているため、同条を適用した原判決には明白な錯誤がある。
結論
1. 飲食店業者は酒類の安全性を確認すべき注意義務を負い、これを怠れば過失が認められる。2. 併合罪の判示に際し行為が特定されていない原判決は理由不備であり、かつ酌量減軽の適用誤りもあるため、破棄を免れない。
実務上の射程
業務上の注意義務の具体的内容(仕入先の選別、疑わしい場合の試験確認)を基礎づける際に参照される。また、訴因や罪数判示における「特定」の程度に関する準則として、実務上重要である。特に併合罪関係にある各罪の個数や内容が不明確な判示は理由不備となる点に注意を要する。
事件番号: 昭和23(れ)1811 / 裁判年月日: 昭和24年4月23日 / 結論: 棄却
被告人はメチルアルコールを飮んで死んだり失明したりした人のあることを人から聞いて知つていた事實を確定した上、右のようなアルコールを飮用に供するために他人に賣渡すには專門家の鑑定を受けるなど科學的方法によつて法令の許容する率(一立方糎中一瓱以下)を超えたメタノールを含有するものではないことを確めた上でなければこれを賣渡し…
事件番号: 昭和24(れ)327 / 裁判年月日: 昭和24年7月23日 / 結論: 棄却
一 しかし、酒類製造につきの兔許を受けない者の製造したアルコール含有飮料品が往々にしてメタノール等の有毒物を含有し、人の生命健康に有害危險なものがあることは既に公知の事實である。從つて飲食物の販賣を業とする者は正規の配給所から買入れたものでない等酒類製造兔許を受けた者の製造したものであることが明らかでない酒精含有飮料品…
事件番号: 昭和26(あ)1377 / 裁判年月日: 昭和27年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有毒飲食物等取締令における「販売」の罪の成立に関し、メタノールを含有しないものと軽信した過失があり、かつ飲用に供するものであることを認識して販売した場合には、同令一条二項及び四条一項後段の罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、飲用に供する目的で販売した飲食物にメタノールが含有されていたにもか…
事件番号: 昭和23(れ)1167 / 裁判年月日: 昭和24年3月17日 / 結論: 棄却
一 本件アルコールは前述のごとく社會通念上飲食物というに足る外觀形態を與えられたものではないから、飲食物等取締令第一條第一項を適用すべき場合に該當しない。そして「飲食物に供する目的を以て」販賣した事實を認定し右第二項を適用したのは正當であつて違法はない。 二 論旨は被告人Aの諸事情「少くとも被告人Aがかかる注意義務を認…