一 判決の謄本の不備は、原判決に何等の影響を及ぼさないこというまでもなく、そして、原判決の原本には、裁判長判事中野保雄、判事亀崎尚弘、判事渡邊好人の署名捺印が存し、同判事三名はいずれも現存の裁判官であること公知の事實であるから、論旨は採ることができない。 二 所論報告書によれば、本件アルコール中に一立方センチメール中一ミリグラム以上のメタノールを含有することを認めることができるからそれ以上幾何のメタノールを含有するか明らかでなくとも原判決には證據上の違法は存しない。
一 判決謄本の不備と上告理由 二 メタノールの含有量に關する審理の程度
舊刑訴法68條,舊刑訴法70條,舊刑訴法42條,舊刑訴法360條1項,有毒飲食物等取締令1條1項
判旨
判決原本に裁判官の署名捺印が存する以上、判決謄本の不備は判決に影響を及ぼさない。また、一定の注意義務の存在は公知の事実として認められ、これに違反した場合には過失責任を負う。
問題の所在(論点)
1. 判決謄本の不備が判決の効力に影響を及ぼすか。 2. 特定の注意義務の存在を「公知の事実」として認定し、過失責任を問うことができるか。
規範
1. 判決の効力は原本に基づいて判断されるため、原本に裁判官の適法な署名捺印がある限り、その謄本の不備は判決の有効性に影響を与えない。 2. 業務上の注意義務の存否については、一般公知の事実に属する事項であれば、証拠によらずにその存在を肯定し、過失の根拠とすることができる。
重要事実
被告人らは、メタノールを含有するアルコールを販売したとして、業務上過失致死傷罪(またはそれに準ずる罪、詳細は判決文からは不明)に問われた。上告審において、被告人側は、①判決謄本に不備があること、②注意義務の存在を認めた原判決には根拠がないこと、③メタノールの正確な含有量が不明であること、等を理由に違法を主張した。
事件番号: 昭和24(れ)2486 / 裁判年月日: 昭和25年2月28日 / 結論: 棄却
原判決に示されているように、判示のような出所不明確なアルコールを他に飲用として販賣讓渡するについては、信頼すべき確實な方法によつてその成分を検査し、飲用に供して差支えないかを一應確かめた上、飲用者の生命身体に不測の危害を起さしめないように注意すべき義務があるにも拘らず、被告人はこのような注意義務を怠つた結果右のアルコー…
あてはめ
1. 原判決の原本を確認すると、裁判長及び陪席裁判官計3名の署名捺印が存し、これら裁判官が実在することも公知である。したがって、謄本に不備があったとしても原判決を左右しない。 2. 原審が判示したような注意義務(メタノール混入を避けるべき義務等)は一般公知の事実に属する。被告人がメタノールの具体的な含有量を知らなかったとしても、禁止量を超えて含有する商品を販売した以上、公知の注意義務に照らし過失の責を免れない。 3. 証拠資料によれば、本件アルコール中に基準値以上のメタノールが含まれていたことが認められ、正確な数値が確定できなくとも有罪認定に違法はない。
結論
本件各上告を棄却する。判決原本が適法に作成され、公知の注意義務違反が認められる以上、原判決に違法はない。
実務上の射程
判決の成立要件に関する形式的な論点と、過失の前提となる注意義務の認定手法(公知の事実による認定)を示す。実務上、公的な規制や一般常識に属する注意義務は、厳格な証拠調べを待たずとも認定し得ることを示唆している。
事件番号: 昭和24(れ)327 / 裁判年月日: 昭和24年7月23日 / 結論: 棄却
一 しかし、酒類製造につきの兔許を受けない者の製造したアルコール含有飮料品が往々にしてメタノール等の有毒物を含有し、人の生命健康に有害危險なものがあることは既に公知の事實である。從つて飲食物の販賣を業とする者は正規の配給所から買入れたものでない等酒類製造兔許を受けた者の製造したものであることが明らかでない酒精含有飮料品…
事件番号: 昭和23(れ)659 / 裁判年月日: 昭和23年11月25日 / 結論: 棄却
一 有毒飮食物等取締令第一條第一項の「飮食物」は、所論のごとく「販賣」の用に供する飮食物に限定すべき理由はない。 二 有毒飮食物等取締令第一條の「讓渡」が有償であるか無償であるかは同條違反罪の成否に關係がないから、その何れに屬するかを判示しなくとも審理不盡ということはできぬ。 三 製造元も明らかでなく、又その性質も判ら…
事件番号: 昭和25(れ)588 / 裁判年月日: 昭和25年12月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】メタノール含有アルコールの譲渡において、飲用の危険が明らかな場合には単なる警告だけでは足りず、譲渡自体を控えるべき注意義務がある。また、譲受人が第三者に分与して死亡させた結果についても、その分与が予見可能であれば譲渡人に過失致死罪の責任が認められる。 第1 事案の概要:被告人Aは、メタノールを含む…
事件番号: 昭和25(れ)335 / 裁判年月日: 昭和25年6月20日 / 結論: 棄却
一 原判決は擬律の點においては有毒飲食物等取締令第一條を適用しているに過ぎないけれども本件アルコールがドラム罐入り工業用アルコールであることを判示しているところから見ると、右アルコールを同條第一項の「飲食物」とは認めないで同條第二項を適用いた趣旨であること明らかである。 二 有毒飲食物等取締令第一條第二項違反の犯罪が成…