一 原判決は擬律の點においては有毒飲食物等取締令第一條を適用しているに過ぎないけれども本件アルコールがドラム罐入り工業用アルコールであることを判示しているところから見ると、右アルコールを同條第一項の「飲食物」とは認めないで同條第二項を適用いた趣旨であること明らかである。 二 有毒飲食物等取締令第一條第二項違反の犯罪が成立するには、メタノールを飲食に供する目的で讓渡又は所持すれば足りるのであつて、メタノールの一定量以上の含有ならびにその認識を必要とするものではない。
一 メタノールを含有するドラム罐入り工業用アルコールと有毒飲食物等取締令第一條第二項の「飲食物」 二 有毒飲食物等取締令第一條第二項違反の罪の成立とメタノール含有量及びその認識の要否
有毒飲食物取締令1條
判旨
有毒飲食物等取締令1条2項違反の罪は、メタノールを飲食に供する目的で譲渡又は所持することで成立し、一定量以上の含有量やその具体的な認識は不要である。
問題の所在(論点)
有毒飲食物等取締令1条2項の罪が成立するために、メタノールの一定量以上の含有およびその事実に関する具体的な認識が必要か。すなわち、故意の対象として「一定量以上の含有」の認識まで必要かが問題となる。
規範
有毒飲食物等取締令1条2項(現行の有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律等の法理に類推)違反の罪が成立するためには、メタノールを飲食に供する目的で譲渡又は所持すれば足りる。当該物質に含まれるメタノールの具体的な含有量や、その一定量以上の含有を認識していることまでは必要とされない。
重要事実
被告人は、ドラム缶入りの工業用アルコールを所持・譲渡した。このアルコールにはメタノールが含有されており、被告人は譲渡人からその旨を申し渡されていた。原審は、当該アルコールを同令1条1項の「飲食物」とは認めず、2項を適用して有罪とした。これに対し被告人側は、メタノールの含有量やその詳細な認識の有無について争い、上告した。
事件番号: 昭和23(れ)1199 / 裁判年月日: 昭和24年4月23日 / 結論: 破棄差戻
原判決は被告人A及び同Bは、何れも「判示品物がメタノールであるとのはつきりした認識はなかつたが之を飮用に供すると身体に有害であるかも知れないと思つたにも拘らずいずれも飮用に供する目的で」之を所持し又は販賣した旨説示してゐるのである、右説示では被告人等は判示品物がメタノールであることは認識していなかつたというに歸し有毒飮…
あてはめ
本件アルコールがドラム缶入りの工業用アルコールであることは、客観的に「飲食物」そのものではないが、飲食に供する目的で扱われた場合には同令1条2項の適用対象となる。被告人は譲渡人からメタノール含有の事実を申し渡されており、少なくともメタノールが含まれていることの認識は存在した。同条項の趣旨は、有毒なメタノールの流通を早期に抑止することにあるため、成分の定量的な詳細やその正確な認識は、犯罪成立の要件とはならないと解される。
結論
メタノールの一定量以上の含有およびその認識は不要であり、飲食目的での譲渡・所持があれば足りる。したがって、被告人の有罪を維持した原判決は正当である。
実務上の射程
行政取締法規における故意の対象を限定的に解釈した事例。特に公衆衛生を害する恐れのある物質の規制において、詳細な成分比率の認識までを不要とする判断は、現行の薬機法や麻薬取締法等の特別法事犯における故意の認定の際にも、その基本姿勢として参照し得る。
事件番号: 昭和23(れ)1197 / 裁判年月日: 昭和24年2月22日 / 結論: 破棄差戻
一 該品物がメタノールであるとのはつきりした認識なく、ただ身體に有害であるかも知れないと思つただけで有毒飲食物等取締令第一條違反の犯罪に對する未必の故意ありとはいい得ない。 二 原判決の認定した事實によれば被告人が原審相被告人等と本件メタノールを共同して購入したことは明らかであるが、本件メタノールを所持した事實及び販賣…
事件番号: 昭和23(れ)202 / 裁判年月日: 昭和23年7月14日 / 結論: 棄却
一 「メチルアルコール」であることを知つて之を飮用に供する目的で所持し又は讓渡した以上は、假令「メチルアルコール」が法律上その所持又は讓渡を禁ぜられている「メタノール」と同一のものであることを知らなかつたとしても、それは單なる法律の不知に過ぎないのであつて、犯罪構成に必要な事實の認識に何等缺くるところがないから犯意があ…
事件番号: 昭和23(れ)659 / 裁判年月日: 昭和23年11月25日 / 結論: 棄却
一 有毒飮食物等取締令第一條第一項の「飮食物」は、所論のごとく「販賣」の用に供する飮食物に限定すべき理由はない。 二 有毒飮食物等取締令第一條の「讓渡」が有償であるか無償であるかは同條違反罪の成否に關係がないから、その何れに屬するかを判示しなくとも審理不盡ということはできぬ。 三 製造元も明らかでなく、又その性質も判ら…
事件番号: 昭和26(あ)1377 / 裁判年月日: 昭和27年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有毒飲食物等取締令における「販売」の罪の成立に関し、メタノールを含有しないものと軽信した過失があり、かつ飲用に供するものであることを認識して販売した場合には、同令一条二項及び四条一項後段の罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、飲用に供する目的で販売した飲食物にメタノールが含有されていたにもか…