一 該品物がメタノールであるとのはつきりした認識なく、ただ身體に有害であるかも知れないと思つただけで有毒飲食物等取締令第一條違反の犯罪に對する未必の故意ありとはいい得ない。 二 原判決の認定した事實によれば被告人が原審相被告人等と本件メタノールを共同して購入したことは明らかであるが、本件メタノールを所持した事實及び販賣した事實は、被告人の單獨行爲であつて原審相被告人と共同行為でないことは明らかである従つて荼判決において被告人の判示所爲に對し刑法第六〇條を適用し相被告人等の行爲についてもまた共同正犯として責を負はしめたことは、錠律に錯誤があると主張する論旨は、理由がある。 三 原判決舉示の鑑定人Aの鑑定書によれば本件液體中に含有するメタノールは一立方セチメートル中約〇、二グラム強であることは明らかである。しかるに原判決は被告人が所持し、且つ販賣した液體は一立方チメートル中約〇、二グラム強のメタノールンを含有する液體であることを明確にしないで、單にメタノールと記載しているので、本件液體は全液悉く純粹のメタノールであると思はしめる表示方法をとつたことは所論の通りである。判文を通読すれば判文の趣旨は右鑑定人Aの作成した鑑定書記載同様のメタノール含有液を所持し且つ販賣した事實を判示するつもりであつたであろうことを推測することは必ずしも不可能とはいえないが正確を期すべき判示方法としては不完全であつて、論旨の如き主張をなし得るものであるから、本論旨もまた理由ありといはなければならない。 四 昭和二一年勅令第五二號による改正前の有毒飲食物等取締令の規定が故意犯のみを處罰することとなつているに反し、改正後の同令は過失犯をも處罰することとなつており且つ改正前と異り刑法第六六條の適用を廢除している等の點に鑑みるときは、改正前の同令よりも厳罰主義をとつたものと言はなければならないばかりでなく改正後の同令の刑は改正前の刑よりも輕くなつたと見るべき點は少しもない。然るに原判決は改正前と改正後における刑の比較をもなさずして漫然改正後の同令を適用したことは擬律に錯誤があるといわなければならない。もつとも改正後の同令第四條第三項によれば刑法第六六條を廢除したにかかわらず原判決は原審相被告人に對し刑法第六六條を適用している點から見れば、原審においては改正前の同令を適用したものではないかとの疑もおきるのであるが、判文は明らかに昭和二一年勅令第五二號有毒飲食物等取締令第四条第一項前段(改正前の同條第一項には前段、後段の區別はない)と記載しているので、改正後の同勅令を適用したものであるトルと言はざるを得ない。
一 メタノール含有物につき身體に有害であるかも知れないと思つただけである場合と未必の故意 二 共同購入したメタノールを一人が所持販賣した場合と共同正犯の成否 三 一立方セチメートル中約〇、二グラム強のメタノールを含有する液體を單にメタノールと表示した判決の違法性 四 有毒飲食物等取締令の適用と刑法第六條
有毒飲食物等取締令1條,刑法38條,刑法60條,刑法6條,刑法66條,舊刑訴法360條1項,昭和21年勅令52号有毒飲食物等取締令4條1項,昭和21年勅令325号有毒飲食物等取締令4條1項,昭和21年勅令325号有毒飲食物等取締令4條3項
判旨
有毒飲食物等取締令違反について未必の故意を認めるには、対象が身体に有害であるとの認識のみでは足りず、同令が規制対象とするメタノール等であることの認識(未必的なものを含む)が必要である。
問題の所在(論点)
事件番号: 昭和23(れ)1199 / 裁判年月日: 昭和24年4月23日 / 結論: 破棄差戻
原判決は被告人A及び同Bは、何れも「判示品物がメタノールであるとのはつきりした認識はなかつたが之を飮用に供すると身体に有害であるかも知れないと思つたにも拘らずいずれも飮用に供する目的で」之を所持し又は販賣した旨説示してゐるのである、右説示では被告人等は判示品物がメタノールであることは認識していなかつたというに歸し有毒飮…
特定の有害物質(メタノール)の所持・販売を処罰する罪において、対象が「身体に有害であるかもしれない」という認識のみで、当該物質に関する未必の故意を認めることができるか。
規範
故意犯が成立するためには、客観的構成要件に該当する事実を認識していることを要する。特定の成分(メタノール等)の所持・販売を禁止する法規の適用において、未必の故意を認めるためには、単に「身体に有害であるかも知れない」という抽象的な危惧のみでは足りず、その対象が当該法規の規制する特定の物質である可能性を認識していることが必要である。
重要事実
被告人は、メタノールを含有する液体を飲用に供する目的で所持・販売したとして、昭和21年勅令第52号有毒飲食物等取締令違反で起訴された。原審は、被告人が「本件品物がメタノールであるとはっきりした認識はなかった」ものの、「飲用に供すると身体に有害であるかも知れない」と思っていた事実を認定し、これをもって未必の故意があるとして故意犯の成立を認めた。
あてはめ
有毒飲食物等取締令1条が規制するのはメタノールまたは四エチル鉛である。身体に有害な物質は他にも多数存在するため、「身体に有害であるかも知れない」という認識だけでは、直ちに同令が掲げるメタノール等についての認識があるとはいえない。原審がメタノールであるとの認識を否定しつつ、抽象的な有害性の認識のみで未必の故意を認めたことは、故意の説示として不十分であり、理由不備の違法がある。
結論
被告人に故意があることの説示に欠けるところがあり、理由不備の違法があるとして、原判決を破棄し、差戻しを命ずる。
実務上の射程
事実の認識(構成要件的故意)の具体性に関する判断である。法令が特定の客体を指定している場合、その客体そのものの性質を(未必的にせよ)認識している必要があることを示しており、単なる抽象的な「違法なもの」「有害なもの」という認識では足りないとする答案構成に有用である。
事件番号: 昭和23(れ)202 / 裁判年月日: 昭和23年7月14日 / 結論: 棄却
一 「メチルアルコール」であることを知つて之を飮用に供する目的で所持し又は讓渡した以上は、假令「メチルアルコール」が法律上その所持又は讓渡を禁ぜられている「メタノール」と同一のものであることを知らなかつたとしても、それは單なる法律の不知に過ぎないのであつて、犯罪構成に必要な事實の認識に何等缺くるところがないから犯意があ…
事件番号: 昭和23(れ)786 / 裁判年月日: 昭和23年12月7日 / 結論: 棄却
一 憲法第三八條第三項並に日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に關する法律第一〇條第三項は犯罪事實の全般にわたつて被告人に不利益な證據は被告人の自白以外には存在しない場合の規定であつて犯罪事實の一部については被告人の自白以外の證據がなくとも他の部分については被告人の自白以外の證據がある場合には右法條にふれないと…
事件番号: 昭和26(あ)1377 / 裁判年月日: 昭和27年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有毒飲食物等取締令における「販売」の罪の成立に関し、メタノールを含有しないものと軽信した過失があり、かつ飲用に供するものであることを認識して販売した場合には、同令一条二項及び四条一項後段の罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、飲用に供する目的で販売した飲食物にメタノールが含有されていたにもか…
事件番号: 昭和23(れ)1167 / 裁判年月日: 昭和24年3月17日 / 結論: 棄却
一 本件アルコールは前述のごとく社會通念上飲食物というに足る外觀形態を與えられたものではないから、飲食物等取締令第一條第一項を適用すべき場合に該當しない。そして「飲食物に供する目的を以て」販賣した事實を認定し右第二項を適用したのは正當であつて違法はない。 二 論旨は被告人Aの諸事情「少くとも被告人Aがかかる注意義務を認…