刑法第一四九條に規定する銀行券の僞造は通常人が不用意にこれを一見した場合に、眞正の銀行券と思い誤る程度に製作されることを要することは言うまでもない。されば、原審がその判決において押收に係る僞造百圓日本銀行券八三三二枚を證據中に飲用して被告人は他の者と共謀の上行使の目的を以て「二重合せ仙花紙に色別にして表は四回刷裏は二回刷で百圓札の文字及び模様を印刷して通用の日本銀行券百圓札合計八三三二枚を僞造したもの」の説明したのは前記の程度に製作されたことを判示した趣旨と解することができる。そして、所論の發券局長印は、百圓銀行券の裏面に印刷された小形の印影であつて、これがなくとも本件銀行券が冒頭に説明した程度に製作されたものと認定することを妨げるものではない。
刑法第一四九條にいわゆる「銀行券」の意義
刑法149條,舊刑訴法360條1項
判旨
刑法148条の通貨偽造罪における「偽造」とは、通常人が不用意に一見した際に真正の通貨と誤認する程度に外観を具備して製作されることを要し、一部の印影が欠けていても当該程度に達していれば偽造に当たる。
問題の所在(論点)
通貨偽造罪(刑法148条1項)における「偽造」の意義、および通貨の形式的要素(印影等)の一部が欠けている場合に「偽造」に当たるか。
規範
刑法148条にいう「偽造」とは、通常人が不用意にこれを一見した場合に、真正の銀行券と思い誤る程度(真正な通貨に対する公共の信用を害する程度)の外観を具備したものを製作することをいう。通貨の構成要素の一部が欠けている場合であっても、上記の客観的程度に達している限り、偽造の成立を妨げない。
重要事実
被告人は、共犯者と共謀の上、行使の目的で、二重合せ仙花紙に表4回・裏2回の印刷を施し、百円日本銀行券の文字および模様を顕出した偽造銀行券8332枚を製作した。当該偽造券には、真正な百円券の裏面に印刷されている「発券局長印」の印影が存在していなかったため、通貨偽造罪の成否が争点となった。
事件番号: 昭和25(れ)661 / 裁判年月日: 昭和25年6月29日 / 結論: 棄却
一 日本銀行券は昭和二一年三月二日限り強制通用力を失い(同年二月一七日勅令第八四號日本銀行券領入令及び同日大藏省令第一三號日本銀行券預入令施行規則)、その後は舊日本銀行券に一定の證紙を貼用したものが新券と看做されるに至つた(同年二月二〇日勅令第九〇號日本銀行券預入の特例の件)。それ故、被告人がその後判示のように行使の目…
あてはめ
本件偽造券は、仙花紙を用い、多色刷りによって真正な百円札の文字および模様が再現されている。裏面の発券局長印は小形の印影にすぎず、通常人が不用意に一見した際、これが欠けていることのみをもって直ちに偽造券であると見破ることは困難である。したがって、文字および模様が精巧に印刷されている以上、通常人が真正の銀行券と思い誤る程度の外観を備えていると評価できる。
結論
本件銀行券は通常人が真正のものと誤認する程度に製作されたものといえ、偽造罪が成立する。上告棄却。
実務上の射程
通貨偽造罪の実行行為である「偽造」の定義(真正な通貨と誤認させる程度の外観)を定立したリーディングケースである。答案上は、本罪の保護法益が通貨に対する公共の信用にあることから、その信用を害するに足りる外観の有無を具体的事実(色、模様、質感等)から論証する際に本規範を用いる。
事件番号: 昭和22(れ)118 / 裁判年月日: 昭和22年12月17日 / 結論: 棄却
正規の手續によらないで入手した證紙を舊圓紙幣に貼附し、限度額を超えて新圓紙幣とみなされるものを作成するときは、通貨僞造罪が成立する。
事件番号: 昭和48(あ)804 / 裁判年月日: 昭和49年7月22日 / 結論: 破棄差戻
印刷物の一部に通貨と紛らわしい外観を有する部分があり、その部分が他の部分との切断により容易に独立の存在となり得るものを製造することは、通貨と紛らわしい外観を有する部分が他の部分と切断されるまでもなく、それ自体で通貨及証券模造取締法一条の「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」の製造に当たる。