一 外国貿易支払票(俗にドル・セント・クーポン)は連合国の指令に基づき外国銀行が発行した弗表示の証券で、一般の外国人が日本国内においてこれと引換えに表示金額相当の物資の購入等をなし得るものであり、その流通は人的および場所的に制限せられているけれども、なお日本国内において事実上流通するものというを妨げないから、刑法第一六二条第一項にいわゆる「其ノ他ノ有価証券」にあたるものと解するを相当とする。 二 有価証券偽造罪における有価証券たるには、法律上一定の形式を必要としないものにあつては、必ずしも発行名義人の記載を要するものではなく、一見世人をして真正に成立した有価証券と誤信せしむべき外観を有するものであれば足りる。
一 外国貿易支払票(俗にドル・セント・クーポン)は刑法第一六二条第一項の「其ノ他ノ有価証券」にあたるか 二 有価証券偽造罪(刑法第一六二条)における有価証券
刑法162条,刑法149条,刑法162条1項,明治38年法律66号外国ニ於テ流通スル貨幣紙幣銀行券偽造及模造ニ関スル法律1条,昭和24年政令389号1条
判旨
日本国内で事実上流通する外国貿易支払票は刑法162条の「有価証券」に該当し、発行名義人の記載等の形式的要件を欠いていても、真正な証券と誤信させる外観があれば有価証券偽造罪が成立する。
問題の所在(論点)
1. 日本国内で事実上流通するに過ぎず、法令で所持等が禁止されている外国貿易支払票が「有価証券」(刑法162条1項)に該当するか。 2. 発行名義人の記載等の形式的要件を欠く場合であっても、有価証券偽造罪が成立するか。
規範
刑法162条1項の「有価証券」とは、財産的価値のある権利が証券に化体され、その行使・移転に証券の占有を要するものを指す。日本国内において事実上流通しているものであれば、人的・場所的な流通制限や法令による収受・所持の禁止があっても同条の有価証券に当たる。また、法律上一定の形式を必要としない証券については、必ずしも発行名義人の記載を要せず、一見して世人が真正に成立した証券と誤信させるに足りる外観を有すれば足りる。
重要事実
被告人らは、連合国の指令に基づき外国銀行が発行したドル表示の「外国貿易支払票」(ドル・セント・クーポン)を偽造した。当該クーポンは、一般の外国人が日本国内で物資購入等に使用できるものであったが、政令により一般の収受や所持が禁止され、流通範囲も限定されていた。また、偽造されたクーポンの一部には、発行名義人の記載や消印を欠くものが含まれていた。
あてはめ
本件クーポンは、事実上日本国内で物資購入の決済手段として流通しており、証券に化体された価値が認められる。政令による禁止規定は行政上の取締りに過ぎず、事実上の流通性を否定するものではないため「有価証券」に該当する。また、たとえ表紙に発行名義人の記載や消印がなく法律上の要件を具備しないとしても、客観的に真正な有価証券であると誤信させる外観を備えている以上、公共の信用を害する危険性があり、偽造罪の成立を妨げない。
結論
本件外国貿易支払票は刑法162条の有価証券に当たり、名義人記載を欠く場合でも、真正な証券と誤信させる外観がある限り、有価証券偽造罪が成立する。
実務上の射程
有価証券の定義における「流通性」が、適法な流通に限らず「事実上の流通」で足りることを示した点に射程がある。また、偽造罪の保護法益が取引の安全(公共の信用)にあることから、形式的な有効性よりも「外観の真正さ」を重視する判断枠組みは、他の偽造罪全般の検討においても活用できる。
事件番号: 昭和36(あ)2706 / 裁判年月日: 昭和38年12月6日 / 結論: 棄却
被告人が、設立準備中の会社である「甲株式会社」の発起人代表乙の承諾を得たとしても、右会社の設立前に行使の目的をもつて、振出人を「甲株式会社代表取締役乙」と表示、押印して、いかにも実在する右会社が振出したものと誤信させるような約束手形を作成するときは、架空の会社の代表資格を冒用したものとして、有価証券偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和35(あ)493 / 裁判年月日: 昭和35年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有価証券偽造罪及び同虚偽記入罪の成立には、その名義の被冒用者が実在人であることを要しない。本判決は、被冒用者の実在性を要件としていた大審院時代の判例は既に変更されていることを確認したものである。 第1 事案の概要:被告人両名が有価証券偽造罪乃至同虚偽記入罪に問われた事案。弁護人は、大審院の判例に基…
事件番号: 昭和27(あ)4689 / 裁判年月日: 昭和34年7月14日 / 結論: 棄却
本件A不動産株式会社増資新株式申込証拠金領収書は刑法一六二条所定の有価証券に当たる。
事件番号: 昭和28(あ)1588 / 裁判年月日: 昭和30年6月29日 / 結論: 棄却
有価証券偽造罪を判示するにあたつては、いかなる名義人のいかなる内容の有価証券であるかがわかる程度に判示するを以て足り、商法上の手形要件を全部表示するの必要はない。