印刷物の一部に通貨と紛らわしい外観を有する部分があり、その部分が他の部分との切断により容易に独立の存在となり得るものを製造することは、通貨と紛らわしい外観を有する部分が他の部分と切断されるまでもなく、それ自体で通貨及証券模造取締法一条の「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」の製造に当たる。
通貨と紛らわしい外観を有する部分がある印刷物の製造と通貨及証券模造取締法一条
通貨及証券模造取締法1条,通貨及証券模造取締法2条
判旨
通貨及証券模造取締法1条にいう「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」の製造とは、印刷物の一部に通貨と紛わしい外観を有する部分があり、その部分が他の部分との切断により容易に独立の存在となり得る場合には、未だ切断されていなくても成立する。通貨に対する社会の信用および経済取引の安全を害する危険がある以上、切り離し前の状態でも模造にあたると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
通貨及証券模造取締法1条にいう「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」の製造について、印刷物の一部に当該部分が含まれているにすぎず、かつ他の部分から未だ切り離されていない状態であっても、同罪が成立するか。
規範
通貨及証券模造取締法が模造を規制する目的は、通貨に対する社会の信用および経済取引の安全を害する危険を未然に防止することにある。したがって、印刷物の一部に通貨と紛わしい外観を有する部分が存在し、その部分が他の部分との切断という容易な作業により独立の存在となり得る場合には、現に切断されているか否かにかかわらず、同法1条の「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」の製造にあたる。
重要事実
金融業者である被告人は、宣伝用広告印刷物(縦約27cm、横約19cm)の下段部分(縦約9cm)に、日本銀行発行の一万円紙幣の聖徳太子像や「壱万円」の表示等を模した図柄を刷り込んだ。当該印刷物の中段と下段の間には短い断続した線(ミシン目のような境界線)が刷り入れられていた。原審は、下段部分が単体で一万円紙幣に紛わしい外観を有することを認めつつも、中段部分から切断されて初めて「製造」が完了すると判断し、切断の事跡がない本件を無罪とした。
事件番号: 昭和60(あ)457 / 裁判年月日: 昭和62年7月16日 / 結論: 棄却
甲、乙がそれぞれ百円紙幣に紛らわしい外観を有する飲食店のサービス券を作成した行為につき、甲において、事前に警察署を訪れて警察官に相談した際、通貨模造についての罰則の存在を知らされるとともに、紙幣と紛らわしい外観を有するサービス券とならないよう具体的な助言を受けたのに、右助言を重大視せず、処罰されることはないと楽観してサ…
あてはめ
本件広告印刷物の下段には、一万円紙幣の主要な特徴を模した図柄が刷り込まれており、客観的に通貨と紛わしい外観を有している。また、中段と下段の境には断続した線が刷り入れられており、この部分は「切断というきわめて容易な作業」により独立の存在となり得る状態にある。このような印刷物を製造することは、それ自体で通貨に対する社会の信用や経済取引の安全を害する危険を生じさせているといえる。したがって、被告人が実際に切り離し作業を行っていないとしても、既に「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」を製造したものと解される。
結論
印刷物の一部に通貨と紛わしい部分があり、それが容易に切り離し可能な状態であれば、未だ切り離されていなくても通貨及証券模造取締法違反(製造罪)が成立する。
実務上の射程
本判決は、模造罪の既遂時期および「製造」の概念を拡張的に示したものである。司法試験においては、形式的な完成(独立した個体としての完成)を待たずとも、実質的な保護法益(通貨への信頼)を侵害する危険性が生じた段階で既遂を認める論理として活用できる。特に「容易に独立の存在となり得るか」という客観的事実からの危険性判断の枠組みが重要となる。
事件番号: 昭和22(れ)118 / 裁判年月日: 昭和22年12月17日 / 結論: 棄却
正規の手續によらないで入手した證紙を舊圓紙幣に貼附し、限度額を超えて新圓紙幣とみなされるものを作成するときは、通貨僞造罪が成立する。
事件番号: 昭和43(あ)2781 / 裁判年月日: 昭和45年4月24日 / 結論: 棄却
一 本件通貨模造行為(判文参照)が芸術上の表現活動のためのものであつたとしても、その模造された通貨が、真正の通貨と誤認されるおそれがあり、欺罔手段としても用いられる危険性を帯有し、経済生活一般に不安をきたすおそれがあると認められる以上、これを通貨及証券模造取締法一条、二条により処罰しても、憲法二一条に違反するものではな…
事件番号: 昭和45(あ)1058 / 裁判年月日: 昭和45年10月22日 / 結論: 棄却
行使の目的をもつてほしいままに、他人振出名義の約束手形の金額欄の数字を改ざんする行為は、有価証券の変造であつて、偽造ではない。