甲、乙がそれぞれ百円紙幣に紛らわしい外観を有する飲食店のサービス券を作成した行為につき、甲において、事前に警察署を訪れて警察官に相談した際、通貨模造についての罰則の存在を知らされるとともに、紙幣と紛らわしい外観を有するサービス券とならないよう具体的な助言を受けたのに、右助言を重大視せず、処罰されることはないと楽観してサービス券Aを作成し、次いで、作成したサービス券Aを警察署に持参したのに対し、警察官から格別の注意も警告も受けず、かえつて警察官が同僚らに右サービス券を配布してくれたのでますます安心して更にほぼ同様のサービス券Bを作成し、また、乙において、甲からサービス券Aは百円札に似ているが警察では問題がないと言つていると聞かされるなどしたため、格別の不安を感ずることもなく類似のサービス券Cの作成に及んだことが認められる本件事実関係(判文参照)の下においては、甲、乙が右各行為の違法性の意識を欠いていたとしても、それにつき相当の理由があるとはいえない。
百円紙幣を模造する行為につき違法性の意識の欠如に相当の理由があるとはいえないとされた事例
刑法38条3項,通過及証券模造取締法1条
判旨
違法性の意識を欠いたことについて「相当の理由」がある場合には犯罪が成立しない余地があることを示唆しつつ、警察官の助言を軽視し、あるいは独自の調査を怠った本件の事実関係下では「相当の理由」は認められない。
問題の所在(論点)
法律の不知または誤解により、自己の行為が適法であると誤信して(違法性の意識を欠いて)犯罪行為に及んだ場合、いかなる条件があれば処罰を免れるか。特に、公的機関の言動を信じた場合に「相当の理由」が認められるかが問題となる。
規範
行為者が自己の行為の違法性を認識していなかったとしても、その誤信について「相当の理由」が認められない限り、故意(または責任)は阻却されない。相当の理由の有無は、関係機関への照会内容、得られた回答の具体性、公的機関の態度、行為者が尽くすべき調査義務の程度などを総合して判断される。
事件番号: 昭和48(あ)804 / 裁判年月日: 昭和49年7月22日 / 結論: 破棄差戻
印刷物の一部に通貨と紛らわしい外観を有する部分があり、その部分が他の部分との切断により容易に独立の存在となり得るものを製造することは、通貨と紛らわしい外観を有する部分が他の部分と切断されるまでもなく、それ自体で通貨及証券模造取締法一条の「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」の製造に当たる。
重要事実
飲食店経営者の被告人Dは、百円紙幣に酷似したサービス券を作成する際、警察署で「紙幣と紛らわしいものは法律違反になる」と告げられ、寸法変更等の助言を受けた。しかしDはこれを楽観的に解釈して助言に従わず作成。後に警察署へ持参した際に格別の注意を受けなかったことで安心し、追加で作成した。知人の被告人Eは、Dから「警察でも問題ないと言っている」と聞き、独自の調査をせず同様の券を作成した。両者は通貨及証券模造取締法違反で起訴された。
あてはめ
被告人Dについては、警察官から直接「法に違反する」と明示的な警告を受け、回避方法の助言も得ていたにもかかわらず、自身の楽観的見解に基づきあえて助言に反する態様で作成しており、後の警察署での無反応を奇貨として違法性がないと信じたことには「相当の理由」がない。また被告人Eについても、先行者であるDの主観的な説明を鵜呑みにしただけで、自ら公的機関に問い合わせる等の調査検討を全く行っておらず、誤信に「相当の理由」があるとはいえない。
結論
被告人らに違法性の意識が欠けていたとしても、それにつき相当の理由がある場合には当たらない。したがって、本件各行為を有罪とした原判決に誤りはない。
実務上の射程
司法試験においては、行政官庁の照会回答や先行判例を信頼して行為に及んだケースで「違法性の意識の欠如」を論じる際のリーディングケースとなる。答案では、単なる法律の不知(法の不知は宥むべからず)ではなく、具体的状況に照らして「適法と信じるのもやむを得ない事情(相当の理由)」があるかを、本判決のように厳格に検討する必要がある。
事件番号: 昭和22(れ)118 / 裁判年月日: 昭和22年12月17日 / 結論: 棄却
正規の手續によらないで入手した證紙を舊圓紙幣に貼附し、限度額を超えて新圓紙幣とみなされるものを作成するときは、通貨僞造罪が成立する。
事件番号: 昭和41(あ)2814 / 裁判年月日: 昭和42年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に事実誤認の瑕疵が含まれる場合であっても、他の証拠により犯罪の成立が十分に認められるときは、判決の結果に影響を及ぼすものではないため、上告趣意とはならない。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀の上、約束手形6通を偽造したとして起訴された。原判決は、本件偽造手形6通すべての金額欄が「チェッ…
事件番号: 昭和43(あ)2781 / 裁判年月日: 昭和45年4月24日 / 結論: 棄却
一 本件通貨模造行為(判文参照)が芸術上の表現活動のためのものであつたとしても、その模造された通貨が、真正の通貨と誤認されるおそれがあり、欺罔手段としても用いられる危険性を帯有し、経済生活一般に不安をきたすおそれがあると認められる以上、これを通貨及証券模造取締法一条、二条により処罰しても、憲法二一条に違反するものではな…
事件番号: 昭和50(あ)1123 / 裁判年月日: 昭和50年9月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】出資法5条1項による高金利の規制は立法政策の問題であり、憲法22条(職業の自由)及び29条(財産権)に違反しない。 第1 事案の概要:被告人Bらは、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下「出資法」)5条1項に違反する高金利の契約・受領を行ったとして刑事訴追を受けた。これに対し、被告…