判旨
判決に事実誤認の瑕疵が含まれる場合であっても、他の証拠により犯罪の成立が十分に認められるときは、判決の結果に影響を及ぼすものではないため、上告趣意とはならない。
問題の所在(論点)
判決において事実認定の一部に誤りがある場合、それが直ちに判決に影響を及ぼす違法な事実誤認として上告理由を構成するか。
規範
事実誤認を理由とする控訴棄却判決の妥当性については、判決が依拠した具体的事実に一部誤り(措辞の不当)があったとしても、記録上の他の証拠に照らして犯罪事実の核心部分が認定可能であり、結論に影響を及ぼさない場合には、法令違反や著しい事実誤認には当たらない。
重要事実
被告人は、共犯者と共謀の上、約束手形6通を偽造したとして起訴された。原判決は、本件偽造手形6通すべての金額欄が「チェックライター」により記載されたと認定して被告人の控訴を棄却した。しかし、実際には6通のうち4通は「手書き」によるものであった。
あてはめ
本件偽造手形6通のうち4通の金額欄が手書きであったにもかかわらず、すべてチェックライターによるものとした原判決の判示は、措辞として妥当を欠く。しかし、一審判決が挙示する各証拠を検討すれば、被告人が共犯者と共謀して本件各約束手形を偽造したという核心的な犯罪事実は十分に認められる。したがって、細部の記載形式に誤りがあったとしても、有罪とする結論を左右するものではない。
結論
原判決には細部において措辞の不当はあるが、結論において誤りはなく、上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
判決に事実誤認がある場合でも「判決に影響を及ぼすべき」ものでなければならないという、刑訴法上の救済の必要性を判断する際の基準として機能する。司法試験では、事実誤認の程度が微細であり、他の証拠で結論を維持できる場合の論証として有用である。
事件番号: 昭和45(あ)2274 / 裁判年月日: 昭和47年6月15日 / 結論: 棄却
判決の宣告にあたり、裁判長が主文の刑を懲役一年六月と朗読すべきところを誤つて懲役一年二月と朗読し、次いで理由の要旨を告げ上訴期間等の告知を行ない、席を立ちかけたところ、弁護人から質問があつたので、即座にその場で懲役一年六月と主文の刑を朗読し直した場合には、被告人に対する宣告刑は懲役一年六月としてその効力を生ずる。
事件番号: 昭和26(あ)1977 / 裁判年月日: 昭和26年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の犯罪事実に対し、証拠の標目を一括して挙示しても、判文と記録を照合してどの証拠がどの事実を認定したか明白であれば、証拠挙示に違法はない。 第1 事案の概要:被告人の二個の犯罪事実を認定した第一審判決に対し、被告人が「証拠の標目を各事実ごとに分けることなく一括して挙げている点は、東京高等裁判所の…
事件番号: 昭和35(あ)2252 / 裁判年月日: 昭和40年3月16日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】判決の基礎となる重要な証拠を適法に証拠採用せず、その証拠を手がかりにしなければ犯罪事実の証明が十分でない場合に、その認定事実を是認することは、理由の食い違いまたは事実認定に関する証拠法則違背に当たり、著しく正義に反する。 第1 事案の概要:被告人が相被告人Iと共謀して手形割引詐欺等を行ったとして起…
事件番号: 昭和28(あ)713 / 裁判年月日: 昭和28年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審判決が適法に証拠調べを経た証拠に基づいて犯罪事実を認定している以上、これを確認した原判決に判例違反等の上告理由は認められない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人は、第一審判決の証拠調べおよび事実認定に誤りがあり、それを是認した原判決には判例違反があるとして上告した。しかし、第一審公判調書…