判旨
判決の基礎となる重要な証拠を適法に証拠採用せず、その証拠を手がかりにしなければ犯罪事実の証明が十分でない場合に、その認定事実を是認することは、理由の食い違いまたは事実認定に関する証拠法則違背に当たり、著しく正義に反する。
問題の所在(論点)
事実認定の基礎となる極めて重要な証拠を、当該被告人に対する証拠として採用せずに有罪判決の結論を維持することが、刑事訴訟法411条(上告裁判所の職権破棄)に規定する「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」や「著しく正義に反する」事態に該当するか。
規範
判決において罪となるべき事実を認定する際、その認定に不可欠な証拠を当該被告人との関係で証拠として採用していないにもかかわらず、その証拠がなければ犯罪の証明が不十分となる場合には、審理不尽による理由の矛盾または事実認定の証拠法則違背が認められる。このような違法が判決に影響を及ぼし、破棄しなければ著しく正義に反すると認められる場合には、職権により原判決を破棄すべきである(刑訴法411条1号、3号)。
重要事実
被告人が相被告人Iと共謀して手形割引詐欺等を行ったとして起訴された事案。第一審は、相被告人Iの捜査段階における供述調書等(証拠番号9、10)をIとの関係でのみ引用し、被告人の関係では証拠として採用しなかった。しかし、被告人は一貫して無罪を主張し反証を挙げていたため、本件の複雑な取引実態を解明するには上記Iの供述調書を手がかりに書証等の意味を理解することが不可欠であり、これらを除外すると被告人の共謀や個々の取引事由の証明が極めて不十分な状況であった。原審は、この第一審の判断を是認して控訴を棄却した。
あてはめ
本件では、相被告人Iの供述調書が全11種類の証拠の中で最も重要であり、これらを活用しなければ書証・物証の正確な意味内容を把握し、60個を超える複雑な取引事実を認定することは困難である。第一審公判廷におけるIの供述は概括的なものに留まり、被告人の具体的な反証を覆すに足りる証明力を有しない。それにもかかわらず、第一審判決がこれらの重要証拠を被告人との関係で証拠として採用しないまま有罪認定を維持したことは、証拠と事実認定の間に論理的な整合性を欠く「理由のくいちがい」または「証拠法則違背」の違法がある。この違法は有罪認定の根幹に関わるため、判決に影響を及ぼすことは明らかである。
結論
被告人を有罪とした原判決には事実認定に関する証拠法則違背の違法があり、これを破棄しなければ著しく正義に反する。したがって、原判決中の中有罪部分を破棄し、差し戻すべきである。
事件番号: 昭和44(あ)1332 / 裁判年月日: 昭和45年6月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告審において適法な上告理由となるためには、事実誤認や単なる法令違反の主張では足りず、判例違反を主張する場合には当該判例を具体的に示す必要がある。 第1 事案の概要:被告人が上告を提起した事案において、弁護人は第一点から第三点までの上告趣意を提出した。その内容は、事実誤認の主張、単なる法令違反の主…
実務上の射程
司法試験の実務基礎科目や刑事訴訟法において、伝聞例外の要件(321条等)を満たさない証拠や証拠採用されていない証拠に基づき、実質的に事実認定が行われている事案(理由の矛盾)を攻撃する際の論拠となる。特に、複数の被告人が存在する場合に、一方の被告人の供述を他方の被告人の罪体認定に用いる際の証拠手続の厳格性を強調する文脈で活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)713 / 裁判年月日: 昭和28年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審判決が適法に証拠調べを経た証拠に基づいて犯罪事実を認定している以上、これを確認した原判決に判例違反等の上告理由は認められない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人は、第一審判決の証拠調べおよび事実認定に誤りがあり、それを是認した原判決には判例違反があるとして上告した。しかし、第一審公判調書…
事件番号: 昭和41(あ)2814 / 裁判年月日: 昭和42年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に事実誤認の瑕疵が含まれる場合であっても、他の証拠により犯罪の成立が十分に認められるときは、判決の結果に影響を及ぼすものではないため、上告趣意とはならない。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀の上、約束手形6通を偽造したとして起訴された。原判決は、本件偽造手形6通すべての金額欄が「チェッ…
事件番号: 昭和30(あ)2372 / 裁判年月日: 昭和30年11月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」とは、偏頗の恐れがなく中立公正な裁判所を指し、量刑不当や審理不尽の主張は当然には上告理由としての憲法違反を構成しない。 第1 事案の概要:被告人が、量刑不当および審理不尽を理由として上告を申し立てた事案。弁護人は、これらの事由が刑訴法405条の上告理由に該当…
事件番号: 昭和31(あ)2441 / 裁判年月日: 昭和33年1月16日 / 結論: 棄却
当せん金附証票法によつて発行させられた当せん金附証票である第四回東北自治宝くじは刑法第一六二条第一項にいう「有価証券」にあたる。