判旨
複数の犯罪事実に対し、証拠の標目を一括して挙示しても、判文と記録を照合してどの証拠がどの事実を認定したか明白であれば、証拠挙示に違法はない。
問題の所在(論点)
裁判所が複数の犯罪事実を認定する際、刑訴法335条1項が求める「証拠の標目」の挙示として、各事実ごとに証拠を対応させず一括して記載することが許されるか。
規範
判決書において数個の犯罪事実が認定されている場合、証拠の標目を一括して掲げて説明しても、判決文の記載と訴訟記録の内容を対照することにより、どの証拠によってどの犯罪事実を認めたのかが客観的に明白である限り、証拠の挙示として違法ではない。
重要事実
被告人の二個の犯罪事実を認定した第一審判決に対し、被告人が「証拠の標目を各事実ごとに分けることなく一括して挙げている点は、東京高等裁判所の判例に違反する」として上告した。実際の第一審判決では、証拠(一)から(四)が第一の事実、証拠(五)及び(六)が第二の事実にそれぞれ対応する形で構成されていた。
あてはめ
本件では、第一審判決が挙示した証拠(一)ないし(四)が第一事実の認定に用いられ、証拠(五)および(六)が第二事実の認定に用いられたものであることが、判示された事実と記録を対照することによって容易に認められる。したがって、証拠の個別的な対応関係が客観的に明確であるといえる。
結論
本件の第一審判決における証拠挙示の方法は違法ではなく、上告理由(刑訴法405条2号・3号)には当たらないため、上告を棄却する。
実務上の射程
判決書の記載における形式的な不備(個別対応の欠如)が直ちに違法となるわけではなく、実質的に認定の根拠が事後的に検証可能かという「明白性」の基準を示したもの。答案上は、理由不備(刑訴法378条4号)の成否を論じる際の限定解釈として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)778 / 裁判年月日: 昭和26年7月17日 / 結論: 棄却
旧刑訴事件にあつては、公判請求書に記載すべき犯罪事実は概括的な記載であつても記録と相俟つて個々の犯罪事実を特定できれば足りること、また公判請求書に記録編綴の司法警察官意見書記載の犯罪実事乃至司法警察官の事件送致書記載の犯罪事実を引用しても差支えないことは、いずれも当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(れ)第八三…
事件番号: 昭和41(あ)2814 / 裁判年月日: 昭和42年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に事実誤認の瑕疵が含まれる場合であっても、他の証拠により犯罪の成立が十分に認められるときは、判決の結果に影響を及ぼすものではないため、上告趣意とはならない。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀の上、約束手形6通を偽造したとして起訴された。原判決は、本件偽造手形6通すべての金額欄が「チェッ…
事件番号: 昭和26(あ)559 / 裁判年月日: 昭和27年5月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告適法性の要件として、判例違反を主張する場合には当該判例を具体的に特定する必要があり、その特定を欠く場合やその他の上告理由に該当しない主張は不適法として棄却される。 第1 事案の概要:被告人が上告を申し立てた際、弁護人が提出した上告趣意書において末尾で「判例違反」に言及していた。しかし、具体的に…
事件番号: 昭和26(あ)2196 / 裁判年月日: 昭和28年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当な証拠採用が認められる場合であっても、当該証拠を除外した他の証拠によって犯罪事実が十分に認定できるときは、判決に影響を及ぼすべき著しい誤りがあるとはいえず、刑訴法411条の適用による破棄を要しない。 第1 事案の概要:被告人両名につき、第一審判決がBの検察事務官に対する供述調書を含む複数の証拠…