一 本件通貨模造行為(判文参照)が芸術上の表現活動のためのものであつたとしても、その模造された通貨が、真正の通貨と誤認されるおそれがあり、欺罔手段としても用いられる危険性を帯有し、経済生活一般に不安をきたすおそれがあると認められる以上、これを通貨及証券模造取締法一条、二条により処罰しても、憲法二一条に違反するものではない。 二 通貨及証券模造取締法一条の「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」との文言は、日常用語として合理的に解釈することが可能であり、社会通念に従い通貨に紛らわしい外観を有するものであるかどうか判断でき、あいまい不明確とはいえない。
一 芸術上の表現活動のための通貨模造行為の処罰と憲法二一条 二 通貨及証券模造取締法一条の「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」との文言はあいまい不明確であるか
憲法21条,憲法31条,通貨及証券模造取締法1条,通貨及証券模造取締法2条
判旨
通貨模造の規制は通貨の信用と経済取引の安全を守るために必要であり、芸術表現であっても「紛らわしい外観」を有し経済生活に不安をきたすおそれがある場合は処罰可能である。また、通貨及証券模造取締法1条の規定は社会通念上合理的に解釈可能であり、憲法21条および31条に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 芸術上の表現活動として行われた通貨の模造行為を、通貨及証券模造取締法に基づき処罰することは、憲法21条に違反するか。 2. 同法1条の「紛ハシキ外観」という規定は、憲法31条の求める刑罰法規の明確性の原則に違反するか。
規範
1. 表現の自由(憲法21条)も絶対無制限ではなく、公共の福祉による制限を受ける。芸術上の表現活動であっても、その行為が通貨の信用や経済取引の安全を害し、経済生活一般に不安を来すおそれがある場合には、規制が正当化される。 2. 「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」という文言は、日常用語として合理的に解釈可能であり、社会通念に従い客観的に判断できるため、明確性の原則(憲法31条)に反しない。
事件番号: 昭和48(あ)804 / 裁判年月日: 昭和49年7月22日 / 結論: 破棄差戻
印刷物の一部に通貨と紛らわしい外観を有する部分があり、その部分が他の部分との切断により容易に独立の存在となり得るものを製造することは、通貨と紛らわしい外観を有する部分が他の部分と切断されるまでもなく、それ自体で通貨及証券模造取締法一条の「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」の製造に当たる。
重要事実
前衛芸術家である被告人は、千円札を素材とした作品制作のため、印刷業者に依頼して千円札表面と同一寸法・同一図柄のものを約2100枚作成させた。これは、クリーム色の上質紙に緑や黒のインクで一色刷りされたものであった。弁護人は、本件行為は芸術活動であり、同法による規制は広範すぎて憲法21条に違反し、かつ規定が不明確で31条に違反すると主張した。
あてはめ
1. 本件模造品は真正な千円札と同一の寸法・図柄を有しており、その色彩や形状に照らせば、用い方によっては通常人が真正の通貨と誤認するおそれがある。これは、詐欺等の欺罔手段として用いられる危険性を帯有するものである。したがって、たとえ芸術表現が目的であっても、経済生活の安全を害する危険がある以上、処罰は許容される。 2. 「紛らわしい外観」の有無は、社会通念に照らして判断可能であり、処罰範囲が不明確であるとはいえない。
結論
本件処罰は憲法21条および31条に違反しない。したがって、被告人を同法違反として有罪とした原判決は正当であり、上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
表現の自由と刑事規制が衝突する場面において、実害発生の蓋然性(本件では経済秩序への危険)を重視する判断枠組みを示した。特に「芸術」の看板を掲げても、客観的に法益侵害の危険がある場合は免責されないという実務上の指針となる。答案上は、21条の合憲性判定において「目的の正当性」と「手段の相当性(危険性の帯有)」を論じる際の有力な依拠先となる。
事件番号: 平成19(あ)2066 / 裁判年月日: 平成21年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】貨幣損傷等取締法等は貨幣の信用の維持等を目的とするものであり、手品を演ずる自由を不当に規制するものではなく、憲法21条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、手品(マジック)に使用する目的で貨幣を損傷等し、または損傷等する目的で貨幣を集めたこと、および貨幣の模造品を輸入したことについて、貨…
事件番号: 昭和60(あ)457 / 裁判年月日: 昭和62年7月16日 / 結論: 棄却
甲、乙がそれぞれ百円紙幣に紛らわしい外観を有する飲食店のサービス券を作成した行為につき、甲において、事前に警察署を訪れて警察官に相談した際、通貨模造についての罰則の存在を知らされるとともに、紙幣と紛らわしい外観を有するサービス券とならないよう具体的な助言を受けたのに、右助言を重大視せず、処罰されることはないと楽観してサ…