一 日本銀行券は昭和二一年三月二日限り強制通用力を失い(同年二月一七日勅令第八四號日本銀行券領入令及び同日大藏省令第一三號日本銀行券預入令施行規則)、その後は舊日本銀行券に一定の證紙を貼用したものが新券と看做されるに至つた(同年二月二〇日勅令第九〇號日本銀行券預入の特例の件)。それ故、被告人がその後判示のように行使の目的をもつて僞造の證紙をその情を知りながら既に強制通用力を失つた舊日本銀行券に貼用し、依つてもつて新券と看做される僞物を造り出したときは、刑法第一四八條の銀行券僞造の罪を構成するものというべきである。 二 日本銀行券預入令は、その後癈止されることなく今日に至るまで依然効力を有している。預金封鎖が解除されたからと云つて、本令が失効したものと解し又はそのように取扱うべきものとする理由は存在しないのである。それ故、本令を適用して有罪判決をしたことは毫も違法ではない。 三 舊刑訴法四〇四條によつて被告人の陳述を聽かずに審理をし公判廷において判決宣告期日を告げた以上右期日に被告人を召喚することを要しない。
一 舊圓紙幣に僞造した證紙を貼附する行爲と銀行券僞造罪 二 預金封鎖の解除と日本銀行券預入令の失効 三 舊刑訴法第四〇四條によつて判決をする場合において判決宣言期日に被告人を召喚することの要否
刑法148條,昭和21年勅令84號日本銀行券預入令1條,舊刑訴法404條
判旨
強制通用力を失った旧日本銀行券に、行使の目的で偽造された証紙を貼付し、新券と看做される外観を作出する行為は、刑法148条1項の銀行券偽造罪を構成する。
問題の所在(論点)
強制通用力を喪失した旧日本銀行券に対し、特定の証紙を貼付することで新券としての効力を持たせる制度が存在する場合において、偽造された証紙を貼付する行為は、刑法148条1項の通貨偽造罪(銀行券偽造罪)に該当するか。
規範
刑法148条1項にいう「偽造」とは、真正な通貨(銀行券等)ではないものを、真正なものと誤認させるに足りる外観を新たに作り出すことをいう。法令により強制通用力を失った旧券であっても、特定の証紙を貼付することで新券と看做される特例が存在する場合、偽造証紙を貼付して当該特例に適合する外観を作出することは、真正な銀行券を創設する行為に該当する。
事件番号: 昭和22(れ)118 / 裁判年月日: 昭和22年12月17日 / 結論: 棄却
正規の手續によらないで入手した證紙を舊圓紙幣に貼附し、限度額を超えて新圓紙幣とみなされるものを作成するときは、通貨僞造罪が成立する。
重要事実
被告人は、昭和21年9月頃、行使の目的をもって、既に強制通用力を失っていた旧百円日本銀行券に、偽造された証紙をその情を知りながら貼付した。当時の法令(日本銀行券預入令等)によれば、旧日本銀行券は原則として強制通用力を失っていたが、一定の証紙を貼付したものについては、例外的に「新券」と看做して流通させることが認められていた。
あてはめ
本件において、被告人が偽造証紙を貼付した旧百円券は、本来は強制通用力を失った紙片に過ぎない。しかし、当時の特例法下では、証紙を貼付した旧券は「新券と看做される」という法的地位を与えられていた。被告人が偽造証紙を貼付した行為は、客観的に見て「新券と看做される通貨」としての外観を新たに作り出したといえる。したがって、無価値な旧券を利用して、通用する銀行券と同等の外観を備えた偽物を製造した以上、銀行券を「偽造」したものと評価される。
結論
被告人の行為は、刑法148条1項の銀行券偽造罪を構成する。したがって、有罪とした原判決は正当である。
実務上の射程
本判決は、通貨偽造罪の客体である「通用する」通貨の意義について、形式的に失効した通貨であっても、法的擬制等により通用力を有する外観を備え得る場合には、偽造罪が成立することを示している。答案上は、偽造の意義(真正な通貨の外観の作出)と、客体の通用性(特例による流通の継続)をリンクさせて論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和24(れ)2485 / 裁判年月日: 昭和25年2月28日 / 結論: 棄却
刑法第一四九條に規定する銀行券の僞造は通常人が不用意にこれを一見した場合に、眞正の銀行券と思い誤る程度に製作されることを要することは言うまでもない。されば、原審がその判決において押收に係る僞造百圓日本銀行券八三三二枚を證據中に飲用して被告人は他の者と共謀の上行使の目的を以て「二重合せ仙花紙に色別にして表は四回刷裏は二回…