Aは、第一審公判において、證人として訊問せられ、其の際被告人は同證人を直接訊問する機會を與えられているのであるから、原審においては、同人に對する訊問申請を却下して、右第一審における同證人の訊問調書を證據としても、これを以て所論の如く、刑訴應急措置法第一二條第一項に違反するものとすることはできない。(昭和二三年(れ)第七一號、同年六月一〇日第一小法廷判決參照)
第二審において證人申請を却下しながら第一審における同證人の訊問調書を採證することの可否
刑訴應急措置法12條1項,憲法37條2項
判旨
喧嘩の事態においては、原則として正当防衛の観念を容れる余地はなく、また第一審で反対尋問の機会があった証人について控訴審で再度尋問せず尋問調書を証拠としても、憲法37条2項及び刑訴法に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 第一審で反対尋問の機会があった証人の再尋問申請を却下し、前審の調書を証拠とすることが、被告人の証人尋問権(憲法37条2項)や適正手続きに反するか。 2. 喧嘩の事態において正当防衛が成立するか。
規範
1. 証拠調べの範囲は事実審裁判所の自由裁量に属し、必要でないと認めた証拠申請を却下することは憲法37条2項に反しない。また、前審で直接尋問の機会が与えられた証人については、その尋問調書を証拠とすることができる。 2. 互いに攻撃し合う「喧嘩」の状態にある場合には、正当防衛の成立要件である「急迫不正の侵害」などの観念を容れる余地はない。
重要事実
被告人は傷害罪に問われた事案において、第一審で証人Aに対する直接尋問の機会を与えられていた。原審(控訴審)は、改めてAを尋問してほしいとの申請を却下し、第一審の尋問調書を証拠として採用した。また、本件は互いに争う喧嘩の最中の出来事であり、被告人側は原審において特段正当防衛の主張を行っていなかったが、上告審において正当防衛の成否や審理不尽等を主張した。
あてはめ
1. 証人Aについては、第一審において被告人に直接尋問(反対尋問)の機会が実際に付与されている。そのため、原審が再度尋問を行わず第一審の調書を証拠としても、証人尋問権の侵害には当たらず、証拠調べの裁量の範囲内である。 2. 本件は事実関係として「喧嘩」の状態であったことが認定されており、このような場合には違法な侵害に対する防衛という正当防衛の状況は認められない。加えて、原審で弁護人が正当防衛を主張した形跡もないため、これについて判断を示さなくとも判断遺脱等の違法はない。
結論
1. 証拠採用の手続きは適法である。 2. 喧嘩の事態である以上、正当防衛は成立せず、原判決に審理不尽等の違法はない。
実務上の射程
「喧嘩」における正当防衛否定の法理を示す典型例である。もっとも、後の判例では、喧嘩であっても「予期しない攻撃」や「一方的な加害」へ移行した場合には正当防衛の余地を認めており、本判例は特段の事情がない原則的状況を指すものと整理すべきである。また、前審での尋問機会がある場合の証拠調べの合理化についての指針としても有用である。
事件番号: 昭和24新(れ)368 / 裁判年月日: 昭和25年3月28日 / 結論: 棄却
憲法第三八條第三項刑訴法第三一九條第二項にいわゆる不利益な證據とは、被告人に對する公訴犯罪事實を認定するのに役立ち得る證據をいうのである。