公判請求書記載の事實と檢事が論告において誤記として訂正した事實とを比照してみると被告人も罪名も犯行の日時も凡て同じであつて、唯犯罪の場所がa詰所でなくてそれより僅かに六十間隔たるb詰所と訂正されたに過ぎない。而もその二つの建物は、同一人の看守する同一機關區構内に存在し、且つ同一人の看守に屬するものである。してみれば右訂正によつて犯罪事實の同一性は失はれていないことが明らかである。このように事實の同一性が害されない限り、檢察官が公判廷に、おいて口頭を以て公判請求書記載の事實を補正し得るものと解すべきことは、所論の通りであつて、原判決のように右の訂正を許されないものと解すべき理由はない。
犯罪の場所の相異と公訴事實の同一性
舊刑訴法291條,舊刑訴法410條18號
判旨
公訴事実の同一性が害されない限り、検察官は公判廷において口頭で公訴事実の記載を補正することが認められる。裁判所は、補正された事実について審判すべき義務を負い、これを怠って元の記載に基づき無罪を言い渡すことは審判未尽の違法となる。
問題の所在(論点)
検察官による公訴事実の場所的誤記の訂正が、公訴事実の同一性を損なわない範囲として許容されるか。また、その訂正がなされた場合に、裁判所はどの事実を審判対象とすべきか。
規範
公訴事実の同一性が害されない範囲内(刑事訴訟法312条1項参照)であれば、検察官は公判廷において口頭で公判請求書(起訴状)の記載を補正することができる。この場合、裁判所の審判対象は補正後の事実に移行し、裁判所は当該事実について実体的判断を下すべき義務を負う。
重要事実
被告人は建造物侵入の罪で起訴されたが、起訴状には「a詰所に侵入した」と記載されていた。公判において検察官は、論告の際に「a詰所」は「b詰所」の誤記であるとして訂正を申し立てた。a詰所とb詰所は、同一機関区の構内にあり、同一人が看守する建物であって、距離も約60間(約109メートル)しか離れていなかった。原審は、誤記の対象が不明確であるとして訂正を認めず、a詰所への侵入事実を認める証拠がないとして無罪を言い渡した。
あてはめ
本件では、被告人、罪名、犯行日時のいずれもが共通している。場所についても「a詰所」から「b詰所」への変更に過ぎず、両者は同一構内の近接した建物で、看守者も同一である。したがって、この訂正は公訴事実の同一性を失わせるものではない。検察官が口頭で事実を補正した以上、審判の対象は補正後の「b詰所への侵入」に移る。原審が補正後の事実を審理せず、補正前の事実に基づき証拠不十分として無罪を言い渡したことは、審判の請求を受けた事件について判決をしない違法(審判未尽)にあたる。
結論
公訴事実の同一性が認められる範囲の補正は有効であり、裁判所は補正後の事実について審判すべきである。原判決を破棄し、差戻しを命ずる。
実務上の射程
訴因変更手続(312条1項)の要否や限界に関する議論の前提となる、事実の同一性判断の基準を示している。特に場所の特定に誤りがある場合、管理権者が同一であるなど場所的密接性があれば、口頭の補正や訴因変更による対応が肯定されやすい。実務上は、裁判所が審判対象を確定する際の義務(審判義務)の根拠として引用される。
事件番号: 昭和25(あ)104 / 裁判年月日: 昭和25年6月8日 / 結論: 棄却
原判決が住居侵入と窃盜の事實を認定し、それぞれ相當法條を適用した上索連犯として重き窃盜の刑を以て處斷したことは所論のとおりである。そして本件起訴状には公訴事實中に「屋内に侵入し」と記載されているが罪名は單に窃盜と記載され罰條として刑法第二三五條のみを示しているに過ぎない。しかも第一審公判調書を見るに右住居侵入の訴因につ…