原審の公判調書は、粗漏であつて、所論の箇所に文字を削除し認印を施してあるにかかわらず欄外にその削除字數の記載がなく、また文字を削除し欄外に削除字數を記載しながら削除した部分に認印を施してなく、從つて、正に舊刑訴第七二條に違反するものであることは所論のとおりである。しかし、同條は訓示的規定であつて右削除の事實は公判調書の記載に照し明瞭であるから、該規定に違反したからと云つてその削除部分は勿論その公判調書を無効なものとはいえない。されば、右の違法は原判決に影響を及ぼさないこと明白であるから、所論は上告適法の理由とならない。
舊刑訴法第七二條違反と公判調書の効力
舊刑訴法72條,舊刑訴法411條
判旨
公判調書の記載の更正手続に関する規定に違反があっても、当該更正の事実が調書の記載から明瞭である場合には、その違反は訓示的規定の違反にとどまり、調書の効力に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
公判調書の作成において、文字の削除・修正の手続(認印や字数記載等)に不備がある場合、当該調書は無効となるか。また、その違法は判決に影響を及ぼすか。
規範
公判調書の文字の削除や修正に関する手続規定(旧刑事訴訟法72条、現行の規則等に対応)は、調書の正確性を担保するための訓示的規定である。したがって、手続上の不備があったとしても、削除や修正の事実が調書の記載自体から客観的に明瞭に判別できるのであれば、その調書を無効とする理由にはならない。
重要事実
被告人の控訴審における公判調書において、文字を削除して認印を施しているにもかかわらず欄外に削除字数の記載がない箇所や、逆に欄外に削除字数を記載しながら削除部分に認印がない箇所が存在した。弁護人は、これらが旧刑事訴訟法72条に違反する重大な瑕疵であり、公判調書は無効であると主張して上告した。
あてはめ
本件における公判調書の記載を確認すると、所定の手続を一部欠いている箇所があることは認められる。しかし、いずれの箇所においても、どの文字が削除・修正されたのかという事実は、調書全体の記載に照らせば客観的に明瞭である。そうであれば、手続の不備は形式的なものにとどまり、調書の実質的な証拠能力や正確性を損なうものではないといえる。したがって、この程度の違法は、判決の結論に影響を及ぼす性質のものではないと解される。
結論
公判調書の手続違反はあっても、削除の事実が明瞭である以上、調書は無効ではなく、判決に影響を及ぼす違法とはいえないため、上告を棄却する。
実務上の射程
公判手続の適法性を証明する唯一の証拠である公判調書(刑訴法52条)において、形式的な不備が直ちに無効を招くわけではないことを示した。実務上は、調書の正確性が実質的に担保されているかを検討する際の基準となる。ただし、あくまで「明瞭」であることが前提であり、内容に疑義が生じるほどの瑕疵がある場合は、調書の証明力が否定される可能性がある点に注意を要する。
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