一 盜賍を被害者に還付する言渡をする場合、その還付を受けるべき被害者は、必ずしも、判決の事実摘示において被害物件の所有者として指示された者であることを要しない。 二 賍物を還付する旨の言渡を受けた被害者が、その還付を受けるべき者であるとする理由は、特に判示することを要しない。 三 調書における文字の挿入削除が法定の要式を缺いた場合でも、直ちにこれを無効とすべきでなく、その効力の有無は、專ら、裁判所が諸般の状況を勘考して、自由の裁量によつて決すべきである。
一 賍物の還附を受けるべき被害者と被害当時の所有者との関係 二 賍物の還附を受けるべき被害者であることの理由明示の要否 三 文字の挿入削除が法定の要式を缺いた調書の効力
刑訴法373条1項,刑訴法360条,刑訴法72條
判旨
公判調書の文字の挿入削除が刑事訴訟法72条の方式を欠く場合であっても、直ちに無効とはならず、裁判所の裁量によってその効力を決することができる。本件では、筆跡等の同一性から作成者による正当な加除訂正と認められるため、当該部分は有効である。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法72条の方式(認印・字数付記)を欠く公判調書の加除訂正の効力、およびその有効性を判断するための基準が問題となる。
規範
公判調書における文字の挿入削除が刑事訴訟法72条に定められた法定の要式を欠く場合であっても、直ちにこれを無効とすべきではない。その効力の有無は、裁判所が諸般の状況を勘考して、自由の裁量によって決すべきである。
重要事実
被告人の弁護人は、原審公判調書において文字の挿入削除がなされているにもかかわらず、作成者の認印がなく、かつ挿入削除の字数の記載もないことから、刑事訴訟法72条の法式を欠き無効であると主張した。記録上、当該箇所の墨色および筆跡は、同一公判調書の他の適式な箇所や調書全文の筆跡と同一であった。
あてはめ
本件における挿入削除部分の墨色および筆跡を検討すると、同一公判調書内の他の適式な修正箇所の筆跡と全く同一である。また、調書全文の筆跡と比較しても同一のものと認められる。このような状況に鑑みれば、右の挿入削除は調書の作成者によって正当になされたものと解するのが相当である。したがって、形式的な不備はあるものの、実質的には作成者の同一性が担保されており、有効な調書の内容を構成すると判断される。
結論
法式を欠く挿入削除であっても、裁判所の裁量により作成者による正当なものと認められる限り有効であり、本件加除訂正は有効である。したがって、判決に影響を及ぼす違法はない。
実務上の射程
公判調書の形式的瑕疵が直ちに調書の証拠能力や証明力を否定するものではないことを示す。実務上、法式不備のある調書については、筆跡の同一性や文脈等の外形的状況から作成者の真意に基づく修正かを認定し、有効性を維持する論拠として活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)1387 / 裁判年月日: 昭和24年2月10日 / 結論: 棄却
原審の公判調書は、粗漏であつて、所論の箇所に文字を削除し認印を施してあるにかかわらず欄外にその削除字數の記載がなく、また文字を削除し欄外に削除字數を記載しながら削除した部分に認印を施してなく、從つて、正に舊刑訴第七二條に違反するものであることは所論のとおりである。しかし、同條は訓示的規定であつて右削除の事實は公判調書の…