一 原審第二回公判調書には、その末尾に、裁判所書記Aの署名はあるけれども、その名下に同人の捺印を缺いていることは所論のとおりである。即ち、右調書は刑事訴訟法第六三條第一項所定の方式に違うものといわなければならない。しかしながら、公判調書が右のごとく、法定の方式を缺いた場合でも、これがために、直ちに、その調書を無効とすべきものではなく、裁判所は諸般の状況を勘案して、その調書の成立及び内容の眞否を判斷した上、自由裁量によつて、その効力の有無を判定すべきものである。 二 原判決は判示強盜の事實を認定する資料として、右公判調書の記載を舉示したものではなく、原審第二回公判における被告人の判示同趣意の後述そのものを證據としたのであつて、右供述内容は右公判調書の記載並びに同調書に引用せられて、同調書の内容の一部をなすに至つた第一審判決の事實摘示によつて、明瞭であるから、判決に右供述を證據として舉示するにあたつては右供述の外、特に第一審判決を記載する必要のないことはいうまでもないことである。
一 書記の署名があつて捺印のない公判調書の効力 二 第一審判決の事實的摘示をその内容とする被告人の第二審公判廷の供述を證據に引用する場合と第一審判決掲記の要否
刑訴法63條1項,刑訴法360條1項
判旨
公判調書に書記の捺印が欠け、法定の方式に違反する場合であっても、直ちに無効となるわけではなく、裁判所は諸般の状況からその成立および内容の真否を判断し、自由裁量によって効力の有無を判定できる。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法63条1項の方式に違反し、裁判所書記の捺印を欠く公判調書の効力、および当該調書に基づき有罪を認定することの可否が問題となる。
規範
公判調書が刑事訴訟法63条1項所定の方式(書記の署名押印等)を欠く場合であっても、当然に無効とはならない。裁判所は、当該調書の成立過程や筆跡等の諸般の状況を総合的に勘案して、調書の成立および内容の真否を判断した上で、自由裁量によってその証拠能力や証明力の有無を判定すべきである。
重要事実
被告人が強盗の事実で起訴された事案において、原審の第2回公判調書の末尾に、担当した裁判所書記の署名はあるものの捺印が欠けていた。この調書には被告人が第1審判決摘示の事実を認める供述をした旨が記載されており、原判決はこの供述等を証拠として有罪を認めた。弁護人は、当該調書は法定の方式を欠き無効である、あるいは証拠として不十分であると主張して上告した。
あてはめ
本件公判調書を確認すると、捺印は欠けているものの、署名の筆跡および本文の筆跡は、同一書記が適式に作成した第1回公判調書の筆跡と明らかに同一である。したがって、当該調書は正当な権限を有する書記によって作成されたものと認められる。また、他に内容の正確性を疑わせる特別の事情も認められない。そのため、捺印の欠如という形式的不備のみをもって直ちに効力を否定することはできず、その記載内容には十分な証明力が認められる。被告人が第1審判決の事実を肯定した供述も、調書および引用された第1審判決によって内容が特定されており、証拠として有効である。
結論
公判調書の捺印欠如は、直ちに調書を無効とするものではなく、諸般の状況から成立の真正が認められる限り、その記載を証拠として事実を認定することは適法である。
実務上の射程
手続的規定に違反がある書面の証拠能力が争点となる場面で、形式的な不備が直ちに無効をもたらすか、あるいは実質的な真正が担保されていれば許容されるかという「判断枠組み」として活用できる。特に公判調書の方式違背について、実質的な成立の真正を重視する判例として引用すべきである。
事件番号: 昭和23(れ)998 / 裁判年月日: 昭和23年12月11日 / 結論: 棄却
一 盜賍を被害者に還付する言渡をする場合、その還付を受けるべき被害者は、必ずしも、判決の事実摘示において被害物件の所有者として指示された者であることを要しない。 二 賍物を還付する旨の言渡を受けた被害者が、その還付を受けるべき者であるとする理由は、特に判示することを要しない。 三 調書における文字の挿入削除が法定の要式…