前記の如く記録により判決言渡調書に檢事が立會つた事實記載のあることがわかる以上該調書に「檢事」の二字が記載してないかといつてその爲判決言渡其のものが無かつたものだとか或は違法無効のものだかというべきものでもない。
判決言渡調書に「檢事」の二字が記載してない場合と判決の効力
刑訴法60條2項2號,刑訴法411條
判旨
公判調書に「検事」の肩書きが欠けていても、氏名の記載や他の訴訟記録等から検察官の立会いが客観的に明らかな場合には、公判手続は適法に成立したものと認められる。また、自白の補強証拠は、自白にかかる事実の一部に欠けていたとしても、全体として自白の真実性を担保するに足りれば足りる。
問題の所在(論点)
1. 公判調書に「検事」という官称の記載が脱落している場合、検察官が列席せず裁判所が不適法に成立したものとして、判決を破棄すべきか。2. 自白以外の補強証拠は、判示事実の全範囲にわたって存在する必要があるか。
規範
1. 公判調書の記載(旧刑訴法60条):公判調書に検察官の官氏名を記載すべき目的は、検察官列席の下で裁判所が適法に成立したことを公証する点にある。したがって、肩書きに欠陥があっても、記録全体から立会いの事実が明白であれば、手続は無効とならない。2. 自白の補強証拠(憲法38条3項):自白以外の証拠が判示事実の細部全てについて存在する必要はなく、自白と相まって事実を認定するに十分な補強証拠が存在すれば足りる。
重要事実
被告人の刑事事件において、原審(札幌高裁)の判決言渡調書には、立会人として「前野重成」との記載はあるものの「検事」という官職名の記載が漏れていた。しかし、同一記録内の訴訟記録送付書には「札幌高等検察庁検事 前野重成」との署名捺印が存在していた。また、実体面においては、被告人の自白を補強する証拠として、被害者が提出した盗難始末書の記載が採用され、有罪判決が下された。これに対し被告人側が、手続の違法および補強証拠の不備を理由に上告した。
あてはめ
1. 本件では、公判調書に「検事」の二字が脱落する欠陥はある。しかし、記録上の訴訟記録送付書には当該人物の検察官としての署名があり、同人が検事であることは原審裁判所にとって顕著な事実であった。公証の趣旨に照らせば、検事の立会いの事実は記録上明白であるため、手続が不成立または無効であるとはいえず、破棄理由にはあたらない。2. 証拠関係を検討すると、被告人の自白に加え、被害者の盗難始末書という補強証拠が存する。これらを総合して事実認定を行っている以上、判示事実の一部に直接的な補強証拠がないとしても、憲法および刑訴法の要求する補強法則に反するものではない。
結論
1. 調書の官称脱落は判決を無効とする違法ではない。2. 自白と補強証拠により事実認定をした原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
手続面では、調書の形式的瑕疵が直ちに無効をもたらすわけではなく、訴訟記録全体から適法性が確認できれば足りるという実質的判断の枠組みを示す。証拠面では、補強法則の範囲について「自白にかかる事実の全部について個別の補強を要しない」とする判例法理を再確認するものであり、現在の実務でも踏襲されている。
事件番号: 昭和23(れ)1277 / 裁判年月日: 昭和23年12月18日 / 結論: 棄却
一 原審第二回公判調書には、その末尾に、裁判所書記Aの署名はあるけれども、その名下に同人の捺印を缺いていることは所論のとおりである。即ち、右調書は刑事訴訟法第六三條第一項所定の方式に違うものといわなければならない。しかしながら、公判調書が右のごとく、法定の方式を缺いた場合でも、これがために、直ちに、その調書を無効とすべ…