公判期日において證人が各別に訊問されたか否かということは、公判調書の必要的記載事項ではないから公判調書に右の點に關する何等の記載がないとしても、これを目して違法といひ得ないことは勿論、この一事から直ちにその證人が各別に訊問されなかつたという事實を推斷することはできない。
證人訊問が各別になされたか否かについて公判調書に記載がない場合
舊刑訴法56條1號,舊刑訴法203條1項,舊刑訴法60條2項
判旨
公判期日において証人が各別に尋問されたか否かは公判調書の必要的記載事項ではなく、調書にその旨の記載がないからといって直ちに証人が各別に尋問されなかったと推断することはできない。
問題の所在(論点)
証人が各別に尋問されたこと(隔離尋問)は公判調書の必要的記載事項にあたるか。また、調書に一部の証人について隔離の記載がない場合、直ちにその証人尋問が他の証人の面前で行われたと認定されるべきか。
規範
証人が各別に尋問されたか否か(証人の隔離尋問)という事実は、公判調書の必要的記載事項に含まれない。したがって、公判調書に隔離尋問が行われた旨の記載がないとしても、それのみをもって手続が違法であると断定することはできず、他の記載状況等から総合的に判断すべきである。
重要事実
刑事被告事件の公判において、AからHまで8名の証人が尋問された。公判調書には、Bら一部の証人については「後に尋問すべき証人の居らざるところにおいて」尋問した旨の記載があったが、AおよびEについてはその記載がなかった。また、Dの尋問終了部分には不可解な箇所に同様の文言が挿入されていた。検察側は、記載のない証人については隔離尋問が行われておらず、尋問手続に違法があると主張して上告した。
あてはめ
まず、証人の隔離尋問の有無は公判調書の必要的記載事項ではないため、記載の欠如が直ちに違法を構成するものではない。本件調書を検討すると、「後に尋問すべき証人の居らざるところにおいて」という文言は後から挿入された形態をとっており、Aらの尋問について記載がないのは単なる挿入の遺脱に過ぎないと考えられる。また、Dの尋問に関する不可解な記載も、本来別の箇所に挿入すべき文言を誤った位置に記載したものと推認される。以上の調書の不備や記載状況を考慮すれば、記載がないことのみから「後に尋問すべき証人の面前で尋問がなされた」という結論を導き出すことはできない。
結論
公判調書の記載のみから隔離尋問が行われなかったと認定することはできず、原審の手続に違法があるとはいえないため、本件上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法上の公判調書の証明力(48条、52条等)に関する判断枠組みとして活用できる。必要的記載事項以外の事項については調書に絶対的証明力が認められないこと、および調書の記載の不備が直ちに事実認定や手続の違法に直結しないことを示す際の根拠となる。
事件番号: 昭和29(あ)511 / 裁判年月日: 昭和29年4月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書に特定の事実の記載がない場合であっても、それが刑事訴訟規則44条等の法令により記載要件とされていない事項であれば、当該記載の欠如をもって直ちにその事実がなかったと断定することはできない。 第1 事案の概要:被告人側は、公判調書に特定の事実の記載がないことを理由として、その事実が実際には存在…