一 記録によれば、(本件昭和二四年三月二九日起訴)第一審の審理及び裁判は判事補が一人でこれをしたものであること竝びに判事補の職權について裁判所法及び訴訟法上制限のあることは所論のとおりである。しかし、同判事補は昭和二三年法律第一四六號判事補の職權の特例等に關する法律第一條の規定により同年一〇月五日當裁判所から判事の職務を行わしめる者に指名された判事補であることは當裁判所に顕著な事實である、そして刑訴法第四八條、刑訴規則第四四條によれば公判調書には裁判官の官氏名を記載すれば足りるものであるから、公判調書上同判事補が判事の職務を行う職權を有することを特に記載する必要はなくその他記録上これを明らかならしめなければならないものではない。 二 第一審第三回公判調書に「公開をしたこと又は公開を禁じたこと及びその理由」が記載されていないことは所論のとおりである。それ故第一審の公判調書作成手續は記載事項を遺脱したもので明らかに刑訴第四八條第二項刑訴規則第四四條第四號の規定に違反しているものといわなければならない。しかし、刑訴第五二條は「公判期日における訴訟手續で公判調書に記載されたものは公判調書のみによつてこれを證明することができる。」と規定しているのであるから、逆に右公判調書に「公開をしたこと」が記載されてないからといつて、直ちに所論のごとくその公判手續は公開されなかつたと速斷するを得ない。本件では公開したか公開をしなかつたかは何等公判調書に記載されていないのであるから、公判調書以外の資料でこれを證明することができるわけである。そして、刑訴法第三七七條の規定は刑訴法第四一四條により上告審にも準用される。しかるに、前記公判調書には被告人その他訴訟關係人において異議を述べる等公開をしなかつたことを推認すべき記載がなく、原控訴趣意書にも公開をしなかつた旨の主張及び立證がなく、また、本件上告趣意書にもその點につき何等の證明保證書をも添付してないから、本論旨は、その前提において不適法として採用し難い。
一 公判調書に公判裁判所を構成した判事補が判事の職務を行う職權を有することの記載の要否甲判事補が裁判所から判事の職務を行わしめる者に指定された者であることと裁判所に顕著な事實 二 公判調書に「公判を公開したこと又は公開を禁じたこと及びその理由の記載のない場合と公判公開の有無
刑訴法48條2項,刑訴法317條,刑訴法52條,刑訴法377條3號,刑訴規則44條2號,刑訴規則44條4號
判旨
公判調書に「公開をしたこと」の記載が漏れていたとしても、直ちに公判手続が非公開であったと断定することはできず、調書以外の資料によって証明することが可能である。
問題の所在(論点)
公判調書に「公開したこと」の記載が欠落している場合、刑訴法52条の規定により、直ちに公判手続が非公開であった(審判公開規定に違反した)とみなされるか。
規範
刑事訴訟法52条によれば、公判調書に記載された事項は調書のみによって証明されるが、記載がない事項については直ちにその事実がなかったものと解されるわけではない。したがって、審判の公開規定(憲法82条、刑訴法377条等)の違反を主張する場合、公判調書に記載がないときは他の資料により証明すべきであり、上告審においてはその事由があることの十分な証明を保証する書面の添付(刑訴法414条、377条準用)が必要となる。
重要事実
第一審の公判調書に「公開をしたこと又は公開を禁じたこと及びその理由」の記載が遺脱されており、刑訴法48条2項および規則44条4号に違反する手続上の不備があった。被告人側は、公判調書に公開の記載がない以上、当該公判手続は非公開で行われたものであるとして、審判公開の原則違反を理由に上告を申し立てた。しかし、上告趣意書には公開されなかったことを証する書面の添付はなかった。
あてはめ
刑訴法52条は調書に「記載された」事項の独占的証明力を定めるものであり、記載がない場合にその事実を否定する趣旨ではない。本件公判調書には公開の有無の記載がないため、他の資料による証明が可能である。しかし、記録上、被告人らが異議を述べた事実はなく、原審でも公開欠如の主張・立証はなされていない。さらに上告審において義務付けられている証明保証書の添付もないことから、公開されなかったという事実の前提を欠くといえる。
結論
公判調書に公開の記載がなくても、直ちに公開規定違反とはならず、証明保証書の添付等による立証がない限り、当該上告理由は不適法として棄却される。
実務上の射程
公判調書の記載の有無と証明力の限界に関する重要判例。調書の「消極的証明力」を否定し、記載漏れがある場合には他の資料(証言や報告書等)による補完を許容する実務指針を示す。答案上は、手続違背の主張に対し、調書の記載がないことのみをもって直ちに違法と断ずることなく、証明責任や保証書の有無に触れる際に活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)511 / 裁判年月日: 昭和29年4月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書に特定の事実の記載がない場合であっても、それが刑事訴訟規則44条等の法令により記載要件とされていない事項であれば、当該記載の欠如をもって直ちにその事実がなかったと断定することはできない。 第1 事案の概要:被告人側は、公判調書に特定の事実の記載がないことを理由として、その事実が実際には存在…