論旨は、第二審判決が證據として引用している被害者Aの盗難届は本件記録中に編綴せられていないから、右の判決は虚無の證據を斷罪の資に供したものであると非難しているが、記録を調べてみると右の盗難届については、第二審公判廷において適法な證據調がなされており、裁判長は被告人に對してこれを讀聞かせ又はその要旨を告げて意見辯解の有無を問うているのであるから、この盗難届が本件記録中に編綴されていないで、別刷Bの記録中に編綴されていたとしても、如何なる内容の盗難届を被告人に示してか不明であるとか虚無の證據を引用したものであるとかいう非難はあたらない。
當該事件記録中に編綴されていない盗難届を適法な證據調をして採證することの適否
旧刑訴法336條,旧刑訴法338條
判旨
適法な証拠調べがなされた書面は、別冊の記録に編綴されていたとしても虚無の証拠とはいえず、被告人に反対尋問の機会が与えられ、かつ放棄された以上、その作成者を尋問せず証拠採用しても違法ではない。また、被害者の盗難届と被告人の自白が存在する場合、自白を唯一の証拠として断罪したことにはならない。
問題の所在(論点)
1. 本件記録に編綴されていない証拠書類(別冊編綴の盗難届)に基づき事実を認定することが、証拠によらない事実認定にあたるか。2. 証拠書類の作成者を証人として尋問することなく証拠採用することが許されるか。3. 盗難届がある場合に、自白を唯一の証拠として断罪した(補強法則違反)といえるか。
規範
1. 公判廷において適法な証拠調べ(読み聞かせ、要旨の告知、意見・弁解の機会の付与)がなされた証拠書類については、物理的に当該事件記録に編綴されておらず別冊に存在していたとしても、実質的な証拠調べがなされている以上、虚無の証拠を基礎としたものとはいえない。2. 伝聞証拠であっても、証人喚問を請求し得る旨の教示に対し被告人がこれを放棄した場合には、作成者の喚問なしに証拠採用しても憲法または訴訟法上の違法は存在しない。3. 被告人の自白以外に、被害者の盗難届等の補強証拠が存在する場合には、自白のみによる処罰を禁じた憲法38条3項には違反しない。
重要事実
被告人は昭和23年4月から6月にかけて犯行に及んだ。第二審判決は、被害者Aの「盗難届」等を証拠として犯罪事実を認定した。しかし、当該盗難届は本件記録中には編綴されておらず、別冊Bの記録の中に編綴されていた。公判手続においては、裁判長が被告人に対し当該盗難届を読み聞かせ、または要旨を告げて意見を問う等の適法な証拠調べを実施していた。また、裁判長は作成者の尋問を請求できる旨を告げたが、被告人および弁護人は証人喚問を請求しなかった。
あてはめ
1. 盗難届は別冊に編綴されていたが、第二審公判廷において裁判長が読み聞かせ等の手続を適法に実施し、被告人に弁解の機会を与えている。したがって、いかなる内容の証拠を示したか不明であるとはいえず、虚無の証拠を引用したとの非難はあたらない。2. 被告人および弁護人は、作成者の訊問権を教示されたにもかかわらず、自らこれを不要と答えている。よって、作成者の証人喚問なしに証拠採用しても適法である。3. 第二審判決は、被告人の自白だけでなく、適法な証拠能力を有する被害者Aの盗難届をも併せて事実認定の基礎としている。したがって、被告人の自白のみを証拠とした事実認定ではない。
結論
原判決に憲法違反および法令違背の点は認められず、本件再上告を棄却する。
実務上の射程
伝聞証拠の同意(または異議なし)や補強法則に関する極めて初期の判例である。記録の編綴場所という形式面よりも、公判廷での適法な証拠調べ手続という実質面を重視する。司法試験においては、補強証拠の証拠能力や、反対尋問権の放棄が認められる場合の伝聞例外の処理(刑訴法326条に関連)を検討する際の基礎的な論理として参照し得る。
事件番号: 昭和25(あ)2813 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代書された書面であっても、作成名義人が内容を承認し署名・捺印等を行っている場合、または証言により内容の同一性が確認されれば、伝聞例外としての要件を充足し得る。 第1 事案の概要:被告人が窃盗事件等の刑事被告人として起訴された事案において、被害者Aの「盗難始末書」が証拠提出された。この書面は、Aが他…