判旨
公判調書において、裁判長の署名があるものの押印を欠いている場合であっても、直ちに当該調書が無効となり、それを基礎とした原判決を破棄すべき理由にはならない。
問題の所在(論点)
裁判長の署名はあるが押印を欠く公判調書の効力、および当該不備が刑事訴訟法411条に基づく原判決破棄の事由になるか。
規範
公判調書の作成手続に不備(署名はあるが押印を欠く等)があったとしても、その不備が形式的なものにとどまり、調書の真実性や信頼性を直ちに損なうものでない限り、当該調書を当然に無効として原判決を破棄すべき事由(刑事訴訟法411条等の適用事由)には当たらない。
重要事実
被告人が上告した事案において、原審(控訴審)の第1回公判調書を確認したところ、裁判長の署名はなされていたものの、その押印が欠けていることが判明した。弁護人はこの手続上の不備を理由に、公判調書の無効と原判決の破棄を主張した。また、調書の一部に不適切な発言の記載があったが、これは裁判長の発問の明らかな誤記であった。
あてはめ
本件では、原審第1回公判調書に裁判長の署名自体は存在しており、押印のみを欠いている状態である。このような署名がある以上、裁判長による内容の確認という実質的な手続は経ているものと解され、押印の欠如は形式的な不備にすぎない。また、調書内の不適切な記載についても、文脈から裁判長の発問の明らかな誤記であることが明瞭であるため、調書全体の信頼性を揺るがすものではない。したがって、職権をもって原判決を破棄すべき著しい正義に反する事態とは認められない。
結論
公判調書に裁判長の署名があり押印を欠くのみでは、当該調書は無効とはならず、原判決を破棄すべき理由にも当たらない。
実務上の射程
公判調書の作成要式(刑訴法48条等)に一部不備がある場合でも、署名による作成名義の確認等、調書の信用性の実質が担保されていれば、直ちに証拠能力や訴訟手続の有効性を否定しない実務的な判断枠組みとして活用できる。答案上は、手続違背が「判決に影響を及ぼすべき明らかな法令の違反」や「著しく不当」な事由に該当するかを論じる際、形式的違背の程度を評価する一材料とする。
事件番号: 昭和26(れ)2374 / 裁判年月日: 昭和27年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判長および裁判所書記官(補)の署名押印がある公判調書については、手続上の瑕疵は認められず、かつ判決において証拠として採用されていない場合には、判決に影響を及ぼすものではない。 第1 事案の概要:上告人は、特定の公判調書について署名捺印の不備等を理由に憲法違反を主張して上告した。しかし、当該記録上…