判旨
公判調書に被告人及び弁護人の出頭の記載を脱漏した違法があっても、記録上両者の出頭が明白であり、実質的に審理が行われている場合には、当該違法は判決に影響を及ぼすとはいえない。
問題の所在(論点)
公判調書に被告人及び弁護人の出頭記載を脱漏したという手続上の違法が、刑事訴訟法上の判決に影響を及ぼすべき法令違反に該当するか。
規範
公判手続の適法性を証明すべき公判調書において、必要的記載事項である被告人等の出頭記載が欠けている場合には形式上の違法が認められる。しかし、上告理由としての訴訟手続の法令違反(刑事訴訟法405条等)が認められるためには、その違法が「判決に影響を及ぼすことが明らか」であることを要する。公判調書の記載に脱漏があっても、関係記録から実質的に審理が行われた事実が明白である場合には、判決の正当性を左右する重大な瑕疵とは評価されない。
重要事実
被告人A及びその弁護人が第一審の第六回公判期日に出頭し、公判手続が行われた。しかし、当該公判期日の公判調書には、被告人及び弁護人が出頭した旨の記載が脱漏していた。この記載漏れの違法を理由に、判決に影響を及ぼす訴訟手続の法令違反があるとして上告がなされた事案である。
あてはめ
本件では、公判調書への氏名記載の脱漏という形式的な違法が存在する。しかし、関係記録を精査すると、被告人及び弁護人が同期日に実際に出頭し、審理が適正に行われたことは「極めて明白」であると認められる。このように、実質的な防御権の行使や審理の適正が担保されている以上、調書の記載不備という事務的な過誤が直ちに判決の結果を左右したとは解されない。したがって、本件の違法は「判決に影響を及ぼすことが明らかである」とはいえない。
結論
公判調書の記載脱漏の違法は認められるが、実質的に審理が行われたことが明白である以上、判決に影響を及ぼす法令違反とはいえず、上告を棄却すべきである。
実務上の射程
訴訟手続の法令違反を主張する際、形式的な違法(調書の記載欠損等)があるだけでは足りず、それが実質的な適正手続を害し判決に影響を与えたかという観点から論じる必要がある。実務上、記録全体から手続の正当性が補完される場合には、形式的な不備の射程は限定される。
事件番号: 昭和28(あ)2829 / 裁判年月日: 昭和30年7月22日 / 結論: 棄却
所論の起訴状朗読等は昭和二七年二月一日以降公判調書の必要的記載事項でなくなつたのであるから所論の第一審における公判調書にその記載のない一事をもつて直ちにその手続が行われなかつたことにはならない。