判旨
公判調書に検察官が不出席である旨の記載があっても、特定の検察官の氏名が併記されている等の事情から誤記であることが明白な場合には、公判手続の適法性は否定されない。また、起訴状の事件名が公訴事実の内容と合致していれば、記載上の不備による違法は存在しない。
問題の所在(論点)
1. 公判調書に「不出席」と記載されている場合でも、客観的状況から誤記と認められるときは適法な判決宣告といえるか。 2. 公訴事実の内容を反映した事件名の記載がなされている場合、起訴状の記載として適法か。
規範
公判調書の記載に明らかな誤記がある場合、調書全体の形式的記載のみならず、具体的な記載態様(官氏名の特定の有無等)に照らして真実の適法な手続が履践されたか否かを判断すべきである。また、起訴状の事件名記載については、公訴事実の内容と実質的に合致している限り、刑事訴訟法上の適法性を有する。
重要事実
被告人は窃盗の罪で起訴されたが、起訴状の事件名には「進駐軍物資窃盗被告事件」と記載されていた。また、原審の第3回公判(判決宣告)の公判調書において、検察官「小泉輝三朗」の名が併記されながらも、その横に「不出席」と記載されていた。被告人側は、検察官不在での判決宣告(刑訴法282条違反等)および起訴状の記載不備を理由に上告した。
あてはめ
1. 公判調書には単に一般的・総括的に「検事」と表示するのではなく、わざわざ「小泉輝三朗」という特定の検事の官氏名が記載されている。このことから、当該検事が現に立ち会っていたことは明白であり、隣接する「不出席」の文字は「出席」の単純な誤記であると評価できる。したがって、検察官出席のもと適法に宣告がなされたといえる。 2. 起訴状に記載された「進駐軍物資窃盗被告事件」という名称は、公訴事実の内容である進駐軍物資の窃盗事実と正確に合致しており、事件の内容を適切に表示していると認められる。
結論
原判決の裁判宣告手続および起訴状の記載には、上告理由となるような違法は存在せず、上告を棄却する。
実務上の射程
公判調書の証明力(刑訴法52条)が問題となる場面で、記載が形式的に事実に反するように見えても、他の具体的記載から誤記が「明白」といえる場合には、その証明力を柔軟に解釈する際の根拠となり得る。実務上は、調書間の矛盾や記載ミスが争われた際の限界事例を示すものである。
事件番号: 昭和23(れ)1138 / 裁判年月日: 昭和23年12月21日 / 結論: 棄却
前記の如く記録により判決言渡調書に檢事が立會つた事實記載のあることがわかる以上該調書に「檢事」の二字が記載してないかといつてその爲判決言渡其のものが無かつたものだとか或は違法無効のものだかというべきものでもない。