原判決が住居侵入と窃盜の事實を認定し、それぞれ相當法條を適用した上索連犯として重き窃盜の刑を以て處斷したことは所論のとおりである。そして本件起訴状には公訴事實中に「屋内に侵入し」と記載されているが罪名は單に窃盜と記載され罰條として刑法第二三五條のみを示しているに過ぎない。しかも第一審公判調書を見るに右住居侵入の訴因について裁判官の釋明もなく檢察官において罰條を示して訴因を追加した形跡もなく第一審判決もその點について何等の法律適用を示していない。されば、住居侵入の點は訴因として起訴されなかつたものと見るのが相當である。しかるに原判決は第一審判決が前科のある事實を判決の理由に示さなかつた點を職權を以て理由にくいちがいあるものとして(判決に理由を附せずの誤りと認める昭和三年大審院刑事判例集三三頁參照)破棄自判しながら訴因の追加もないのに住居侵入の犯罪事實を認定しこれに對し刑法第一三〇條を適用したのは、結局審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるものといわなければならない。しかし、原判決は住居侵入と窃盜の牽連一罪の刑を以て處斷したものであるから、右違法は未だ原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認め難い、そして本論旨は刑訴法第四〇五條に定める上告理由に當らないし、また、右のごとく同第四一一條を適用すべきものとも認められないから、採ることができない。
審判の請求を受けない事件について判決した違法がある場合と刑訴法第四〇五條同第四一一條
刑訴法378條3號,刑訴法405條,刑訴法411條1號
判旨
起訴状に住居侵入の事実が記載されていても、罪名や罰条の記載がなく、公判での訴因追加手続も行われていない場合、住居侵入罪を認定することは審判の請求を受けない事件について判決した違法にあたる。もっとも、窃盗罪との牽連一罪として処断され刑量に影響しない場合は、破棄自判を要する著しい正義に反する違法とは認められない。
問題の所在(論点)
起訴状に事実上の記載があるものの、罪名・罰条として掲げられていない罪について、訴因変更等の手続を経ずに裁判所が認定・処断することは許されるか。
規範
裁判所は、検察官によって適法に審判の請求がなされた訴因の範囲内でのみ審判を行う義務を負い、これを超えて犯罪事実を認定することは「審判の請求を受けない事件について判決をした」違法となる。訴因の特定は、起訴状の公訴事実、罪名、罰条を総合して判断すべきであり、事実の一部記載があるからといって、手続を経ずに別罪を認定することは許されない。
重要事実
被告人が窃盗罪で起訴された際、起訴状の公訴事実には「屋内に侵入し」との記載があったが、罪名は「窃盗」、適用罰条は「刑法235条」のみであった。第一審では住居侵入に関する釈明や訴因追加の手続はなされず、第一審判決も法律適用を示さなかった。しかし、原審(控訴審)は職権破棄自判の際、訴因追加の手続を経ないまま住居侵入の事実を認定し、窃盗罪との牽連一罪(刑法54条1項後段)として処断した。
あてはめ
本件では、起訴状に「侵入」の文言があるとはいえ、罪名および罰条は窃盗罪に限定されており、住居侵入罪については公判廷での訴因追加手跡も一切なされていない。したがって、住居侵入の事実は審判の対象(訴因)となっておらず、これを認定した原判決には不告不理の原則に反する違法がある。もっとも、原判決は住居侵入と窃盗を牽連一罪として最も重い窃盗罪の刑で処断しており、結果において被告人の不利益とはなっていないため、刑訴法411条の破棄事由である「著しく正義に反する」とまでは認められない。
結論
住居侵入罪を認定した点には不告不理の原則違反の違法があるが、牽連一罪として処断されている以上、判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえないため、上告を棄却する。
実務上の射程
訴因の特定範囲(不告不理)に関する基本判例。起訴状の「事実」欄に断片的な記載があっても、罪名・罰条との整合性や公判での経緯から、審判の対象外と判断されるリスクを示す。答案上は、訴因変更手続の要否を論じる際や、審判対象の確定に関する議論で引用される。
事件番号: 昭和24(れ)2949 / 裁判年月日: 昭和25年5月4日 / 結論: 破棄自判
最高裁判所が破棄自判するに當り被告人は犯時及び原審判決當時には少年であつたが今や滿十八歳以上となつたものであるから、少年法を適用しないで處斷刑期並びに原判決の言渡した不定期刑(二年六月以上五年以下)の範圍内で被告人を懲役三年六月に處し、第一審における未決勾留日數中八〇日を刑法二一條に則り本刑に算入すべきものとする。
事件番号: 昭和23(れ)55 / 裁判年月日: 昭和23年4月6日 / 結論: 棄却
原判決が第一事實として判示した窃盗の事實については檢察官から適式の書面による公訴が提起されたことは記録上認められないことは所論のとおりであるが、原審は、右窃盗の事實は原判示第二事實の強盗未遂の事實と連續犯の關係あるものとして、言いかえれば適式に公訴の提起された強盗未遂罪と一罪の關係あるものとして審判したのであるから、原…
事件番号: 昭和28(あ)3824 / 裁判年月日: 昭和28年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】住居侵入罪が強盗罪の手段となる関係にある場合、起訴状において訴因や罰条として明示され、被告人に送達されている限り、適法に訴訟の対象となり得る。 第1 事案の概要:被告人は、強盗等の罪で起訴された。被告人側は、住居侵入の事実が昭和28年1月24日付の起訴状には訴因罰条として含まれていたものの、同年3…
事件番号: 昭和25(あ)1200 / 裁判年月日: 昭和26年2月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法411条は上告理由を定めた規定ではなく、同法405条の事由がない場合でも、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる場合に、裁判所が職権で破棄し得る事由を定めたものである。 第1 事案の概要:被告人および弁護人が上告を申し立てたが、その上告趣意の内容は、刑事訴訟法405条に規定…