被告人Aは同人の居宅を訪れ屋内を捜索中の米子税務署勤務大藏事務官B同税務署雇Cに對し、捜索に來た税務官吏であることは推察しながら、右Cの腕をつかんで同家の土間に引つぱり下したり、B事務官が木桶に封印するのを邪魔しようとしたりして、暴力を加えその圓滿な職務の執行を妨げたというのである。右のCは所論のように單獨だつたのではなく、大藏事務官Bと共にその補助者として探索押收に從事したものであるから、それはやはり公務の執行であつて、職務權限とした不適法の行爲ということはできない。又これを妨げた被告人Aの右のような所爲を權利に基く正當な行爲ということもできない。
税務署の雇に對する公務執行妨害
刑法95條1項
判旨
公務執行妨害罪における「職務の執行」とは、公務員がその職権の範囲内で適法に行う行為を指すが、捜索において証拠物件として封印する行為は、たとえ対象物が後に密造酒でないと判明した場合であっても、職務行為としてなされた以上、その妨害は同罪を構成する。
問題の所在(論点)
捜索の現場において、公務員が証拠物件と判断して封印等の措置を講じる行為が、後にその対象物の内容が犯罪に関係のないものであったと判明した場合であっても、なお公務執行妨害罪の保護対象となる「適法な職務の執行」といえるか。
規範
公務執行妨害罪(刑法95条1項)における「職務の執行」が適法であるためには、公務員がその一般的職務権限に属する行為を、具体的な職務執行の要件を備えて行うことを要する。捜索・押収等の強制処分において、現場の状況に基づき証拠物件として封印を施す行為は、公務員の職務権限の範囲内の行為であり、事後的に対象物の性質が想定と異なっていたとしても、直ちにその職務の適法性が否定されるものではない。
重要事実
税務署員らは密造酒検挙のため、被告人の自宅に赴き捜索を実施した。その際、大蔵事務官らは木桶を証拠物件として封印しようとしたが、被告人はこれを阻止しようとして事務官らの補助者の腕を掴んで土間に引き下ろすなどの暴行を加えた。被告人は、当該木桶の中身は密造酒ではなく白味噌であったから、その封印を拒絶することは正当な行為であり、公務執行妨害罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
本件において、大蔵事務官らが木桶に封印を施そうとした行為は、密造酒の内偵という具体的任務に基づき、捜索の現場において証拠物件を確保するために行われたものである。仮に被告人が主張するように木桶の内容が白味噌であったとしても、その封印措置自体は事務官の職務行為としてなされたものである。したがって、これに対し暴力を加えて妨害した被告人の行為は、公務員の円満な職務執行を妨げるものであり、権利に基づく正当な行為とは認められない。
結論
仮に封印対象が白味噌であったとしても、それを証拠物件として封印することは職務行為としてなされたものである以上、その妨害は公務執行妨害罪を構成する。
実務上の射程
職務の適法性判断において、行為当時の状況に照らして職務権限内といえるかどうかが重要であることを示している。現場での判断に基づく証拠確保のプロセスを広く保護する趣旨であり、結果論的な事実(対象物の真実の中身など)のみをもって職務の適法性を否定することはできないという実務上の指針となる。
事件番号: 昭和25(れ)1718 / 裁判年月日: 昭和26年3月20日 / 結論: 棄却
公務員の職務の執行に当りその執行を妨害するに足る暴行を加えるものである以上、それが直接公務員の身体に対するものであると否とは問うところではない。本件においては、原判示によれば、被告人はC事務官等が適法な令状後段説示により押収した煙草を街路上に投げすててその公務の執行を不能ならしめたというのであるから、その暴行は間接には…
事件番号: 昭和26(れ)242 / 裁判年月日: 昭和26年9月27日 / 結論: 棄却
濁酒の醸造量はその仕込原料よりも減少することが経験則に合致する。
事件番号: 昭和27(あ)2966 / 裁判年月日: 昭和28年10月2日 / 結論: 棄却
刑法第九五条は公務員を特別に保護する規定ではなく、公務員によつて執行される公務を保護するものである。