一 原審第一回公判調書によれば、原審裁判長は被告人を尋問する間、適時所論各證據物件をそれぞれ被告人に展示し一々問を發してその意見辯解を求め、被告人もその都度これに答へていることを認め得るのである(記録三七四丁及び三七九丁参照)。されば該證據物件については適切かつ適法に證據調がなされたものといい得るのである。それ故論旨は採用に値しない。 二 所論鑑定人Aの鑑定書中に「被害者Bの死体を解剖し…」との記載の存することは、論旨の指摘する通りである。しかし該鑑定書の他の部分における記載に徴して、右解剖に付せられたのは本件強盜殺人の被害者の死体であることは疑の餘地なく、又原判決舉示の證據によれば右被害者の氏名が「C」であることも明白である。されば原審が所論「B」なる記載を「C」の誤記と認めたのは正當であり、又その誤記と認めた所以を特に證據を指示して説明しなかつたとしても、これを目して採證の法則に違反したものということはできない。
一 被告人尋問中に證據物を展示し意見辯解を求めたことを認め得る場合と證據調の適否 二 鑑定書中の強盜殺人の被害者名の誤記の誤記たることの認定
舊刑訴法338條,舊刑訴法341條,舊刑訴法347條,舊刑訴法336條
判旨
証拠物に対する証拠調べは、裁判長が被告人に当該証拠物を展示して意見・弁解を求める方法により適法に行われる。また、鑑定書等の記載に誤記がある場合でも、前後の記載や他の証拠からその趣旨が明白であれば、特段の説明なく誤記と認めても採証法則に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 裁判長が被告人尋問の過程で証拠物を提示し意見を聴取する手法による証拠調べの適法性。2. 証拠書類(鑑定書)に記載された重要な事実(被害者の氏名)が実際の認定と異なる場合に、それを誤記として扱うための要件と理由説明の要否。
規範
証拠物については、公判廷において被告人に展示し、その意見や弁解を求める機会を与えることで、適切かつ適法な証拠調べがなされたものと解する。また、証拠書類の記載内容に明らかな誤記がある場合、他の記載部分や証拠との整合性に照らして客観的に誤記と認められるときは、格別の証拠提示や説明を要することなく、実体に応じた認定を行うことが許容される。
事件番号: 昭和24(れ)1072 / 裁判年月日: 昭和24年7月12日 / 結論: 棄却
檢事が現行犯人又は準現行犯人として逮捕された被疑者を受け取つたときは、檢事は舊刑訴法第一二九條に從い、兎も角訊問することが要求されているのであつて、訊問の結果勾留の必要がないと認めたときは直ちに釋放すべくその必要ありと認めたときは、現行犯手續の適否を考慮して刑訴應急措置法第八條第三號其の他に從つて適當な措置を講ずべきも…
重要事実
強盗殺人被告事件において、原審の裁判長は、被告人の尋問中に適宜証拠物件を展示し、一々問いを発して被告人の意見・弁解を求めた。一方、証拠として採用された鑑定人の鑑定書には、被害者の氏名が「B」と記載されていたが、判決書における被害者の氏名は「C」とされていた。原審は、この氏名の違いを鑑定書上の単なる誤記と判断した。
あてはめ
1. 原審第一回公判調書によれば、裁判長は尋問の間に適時証拠物件を被告人に展示し、各々につき意見弁解を求めており、被告人もこれに応じている。この手続により、証拠物の内容について対審の場での検討が尽くされたといえる。2. 鑑定書中の被害者氏名「B」については、当該鑑定書の他の記載から、本件の強盗殺人被害者の死体を解剖したものであることは疑いがない。また、他の証拠から被害者が「C」であることは明白であり、記載の矛盾は単なる形式的な誤記と評価できる。したがって、特段の証拠指示や説明がなくとも、これを誤記と認定することに違法はない。
結論
本件証拠調べ手続および誤記の認定は適法であり、採証法則違反等の上告理由は認められないとして、上告を棄却した。
実務上の射程
証拠物の取調べについて、被告人に展示して意見を聴くという実務上の慣行が適法であることを確認した事例。また、鑑定書等の形式的な記載の不備が、他の証拠との関係で明白な誤記と判断できる場合には、訴訟手続の著しい違反とはならないことを示しており、証拠評価における柔軟な判断を肯定するものである。
事件番号: 昭和23(れ)1016 / 裁判年月日: 昭和24年3月5日 / 結論: 破棄差戻
原審公判調書を精査するも、右押収物件について舊刑訴法第三四一條第一項の證據調手續を履踐した證跡がない、しからば、原判決は適法な證據調を經ない、證據物を證據とした違法があるのであつてこの點において原判決は破毀を免れないものである。
事件番号: 昭和23(れ)1878 / 裁判年月日: 昭和24年5月10日 / 結論: 破棄差戻
一 原判決は鑑定人A作成の鑑定書並に鑑定人B、同C作成の鑑定書中の記載を證據として判示第二の事實を認定しているか原審の各公判調書には右の兩鑑定書につき證據調をした旨の記載がないこと所論の通りである。従つて右の兩鑑定書については證據調がなされなかつたものと認めなければならない。よつて論旨は理由があり原判決はこの點に於いて…