原審公判調書を精査するも、右押収物件について舊刑訴法第三四一條第一項の證據調手續を履踐した證跡がない、しからば、原判決は適法な證據調を經ない、證據物を證據とした違法があるのであつてこの點において原判決は破毀を免れないものである。
適法な證據調を經ない證據物を證據とした判決の違法
舊刑訴341條1項
判旨
裁判所が証拠物を事実認定の基礎とするためには、適法な証拠調べ手続を履践しなければならない。適法な証拠調べを経ない証拠物を証拠として事実を認定した判決には、判決に影響を及ぼすべき法令違反がある。
問題の所在(論点)
適法な証拠調べ手続を経ていない証拠物に基づいて事実認定を行うことは、適正な証拠裁判主義の観点から許されるか。
規範
事実の認定は、適法な証拠調べを経た証拠によらなければならない。証拠物については、法に定められた証拠調べ手続(現行法では刑事訴訟法305条、306条、刑事訴訟規則203条等)を適切に履践し、当事者に意見を述べる機会等を与えた上で、初めて証拠能力が付与され、事実認定の基礎とすることができる。
重要事実
強盗被告事件において、原審(高等裁判所)は、事件で使用されたと思われる出刃包丁、菜切包丁、角棒の存在を本件強盗の事実を認定するための証拠として挙示した。しかし、原審の公判調書を精査しても、これら押収物件について適法な証拠調べ手続(旧刑訴法341条1項)を履践した証跡が認められなかった。
あてはめ
原判決が事実認定の根拠とした出刃包丁等の証拠物は、判決の前提となるべき重要な証拠である。しかし、公判調書によれば、これらの証拠物について法が定める証拠調べ手続が行われていない。適法な調査を経ないままこれらを事実認定の資料としたことは、証拠調べに関する法令の規定に違反するものであり、審理の適正を著しく欠くといえる。
結論
適法な証拠調べを経ない証拠物を証拠とした原判決には法令違反があるため、破棄を免れない。原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
刑事訴訟法における証拠裁判主義(317条)の帰結として、証拠調べ手続の履践が事実認定の不可欠な前提であることを示す判例である。答案上は、証拠調べの不備が判決に影響を及ぼす法令違反(訴訟手続の法令違反)を構成する際の論拠として使用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1555 / 裁判年月日: 昭和26年4月12日 / 結論: 破棄差戻
一 原判決が所論A提出の盗難被害届の記載を、原判決挙示の他の証拠と共に綜合して判示被告人の犯行を認定したものであることは所論のとおりである。 二 しかるに原審公判調書によれば、原審においては、ただ「各訊問調書並各聴取書、原審公判調書並判決書、上申書及病気診断書」についてのみ順次読聞け又はその要旨を告げ、次いで押収品並び…
事件番号: 昭和23(れ)1878 / 裁判年月日: 昭和24年5月10日 / 結論: 破棄差戻
一 原判決は鑑定人A作成の鑑定書並に鑑定人B、同C作成の鑑定書中の記載を證據として判示第二の事實を認定しているか原審の各公判調書には右の兩鑑定書につき證據調をした旨の記載がないこと所論の通りである。従つて右の兩鑑定書については證據調がなされなかつたものと認めなければならない。よつて論旨は理由があり原判決はこの點に於いて…