一 原判決が所論A提出の盗難被害届の記載を、原判決挙示の他の証拠と共に綜合して判示被告人の犯行を認定したものであることは所論のとおりである。 二 しかるに原審公判調書によれば、原審においては、ただ「各訊問調書並各聴取書、原審公判調書並判決書、上申書及病気診断書」についてのみ順次読聞け又はその要旨を告げ、次いで押収品並びに記録添付の図面を展示し、意見弁解ありや否やを問うに止まり、前示A提出の盗難被害届については何等証拠調手続の履践された証跡は存在しないのである(もとより被告人訊問の際においても右被害届が読聞けられ又は展示され、これに関する意見弁解の求められた形跡は認められない)果して然りとすれば原審は証拠調を経ない証拠によつて事実を認定した違法あるに帰し、既にこの点において原判決は全部破棄を免れない。
証拠調を経ない証拠によつて事実を認定した判決の違法
旧刑訴法336条,旧刑訴法340条1項
判旨
裁判所が事実認定の基礎とする証拠は、公判期日において適法な証拠調べを経たものでなければならない。証拠調べ手続を経ていない盗難被害届を、被害事実を認定する有力な直接証拠として援用して有罪を認定した原判決には、証拠によらない事実認定の違法がある。
問題の所在(論点)
証拠調べ手続を経ていない書面を事実認定の基礎とすることが、適法な証拠調べに基づく事実認定を要求する刑事訴訟法の原則に抵触するか。
規範
刑事訴訟における事実の認定は、公判期日において適法な証拠調べ手続(読み聞かせ、要旨の告知、展示、意見弁解の機会付与等)を経た証拠に基づかなければならない。これら法定の手続を履践していない書面等を事実認定の基礎に用いることは、証拠裁判主義に反し許されない。
重要事実
被告人が犯行を否認する中で、原審はA提出の盗難被害届を、被害内容という犯行の核心的部分を認定するための有力な直接証拠として援用した。しかし、原審の公判調書によれば、他の調書や診断書等の証拠調べは行われていたものの、当該盗難被害届については読み聞かせや要旨の告知、被告人への意見弁解の聴取といった証拠調べ手続が一切行われていなかった。
あてはめ
本件におけるA提出の盗難被害届は、被害事実(特に被害内容)を認定する上で最も有力な直接証拠として機能している。しかし、公判記録上、当該書面が適法に読み聞かされ、または展示され、被告人に意見を述べる機会が与えられた形跡は全く認められない。このように証拠調べ手続を履践していない証拠を事実認定の根幹に据えることは、適正な証拠調べを経た証拠のみを裁判の基礎とすべき原則を逸脱するものである。
結論
証拠調べを経ていない証拠によって事実を認定した違法があるため、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
刑事訴訟法317条(証拠裁判主義)および証拠調べ手続(同法290条以下)の重要性を示す判決である。答案上は、伝聞法則等の証拠能力の議論以前に、そもそも公判廷で適法な手続がとられたかという「証拠調べの要否」を問う際に活用できる。特に、記録上証拠調べが漏れている書類を判決が引用している場合の違法性を指摘する際の規範として機能する。
事件番号: 昭和23(れ)1473 / 裁判年月日: 昭和24年2月8日 / 結論: 破棄差戻
右訊問調書については原審公判廷では適法な證據調をしたものと認めるに由なく、かかる證據調をしない右訊問調書を犯罪事實認定の資料に供した原判決は採證の法則に反した違法であるもので右の違法は原判決に影響を及ぼすものといわなければならない。