論旨は、審理の冒頭における概括的な犯罪事実の承認によつて、犯罪事實の内容に亘り全部を認めたものとすることはできないと主張するなるほど、被告人が概括的の問答では犯罪事實を認めても、個々の點についてはこれに反する供述をしたような場合には、冒頭の答えだけで細部に亘る悉くの事實を認めたものとは云い難いこともあらう。しかしその何れの供述が眞實に合するか、從つて何れを證據として採用するかは、裁判官が自由な心證によつて決し得るところである。のみならず本件に於ては、所論の、被告人が拳銃をAに渡したという供述と冒頭の供述とは必ずしも矛盾するものではない。
被告人の審理の冒頭における犯罪事實の概括的な供述と個々の點についての供述とが相反する場合と自由心證
舊刑訴法337條
判旨
被告人が冒頭手続で犯罪事実を概括的に認めた場合、その後に細部で矛盾する供述があっても、証拠の採否は裁判官の自由心証に委ねられる。また、他者に物品の保管を委託したとしても、引き続き所持を継続していると認定することは可能である。
問題の所在(論点)
被告人が冒頭手続で行った概括的な事実の承認を証拠として犯罪事実を認定できるか。また、他者に保管を委託した事実は、拳銃の「所持」の認定を妨げるか。
規範
1. 被告人が公判冒頭で犯罪事実につき概括的な承認の供述をした場合、その供述を犯罪事実認定の証拠とすることができる。2. 被告人が細部において反する供述をした場合であっても、いずれの供述が真実に合致し、いずれを証拠として採用するかは裁判官の自由な心証(自由心証主義)によって決せられる。3. 「所持」の概念については、物理的に手元になくとも、内容を秘匿して他者に保管を依頼し、実質的な支配を及ぼしている限り、所持の継続を肯定しうる。
重要事実
被告人は拳銃1挺を所持していたとして起訴された。原審の冒頭手続において、被告人は検察官が陳述した起訴事実に相違ない旨を認める概括的な供述を行った。一方で、被告人は拳銃を実弟Aに渡し、Aの勤務先である小学校に保管するよう依頼していた事実もあった。弁護人は、冒頭の概括的な承認のみで犯罪事実を認定するのは証拠によらない事実認定であり、また被告人が拳銃をAに渡した以上は所持にあたらないと主張して上告した。
事件番号: 昭和25(れ)1800 / 裁判年月日: 昭和26年3月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が公判廷において犯罪事実を全面的に認めている場合、証拠品の一部について取調べを行わなかったとしても、直ちに証拠裁判主義等の法則に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人が拳銃1丁および実包10個を所持していたとして起訴された事案。原審は、証拠品のうち実包5個については証拠調を行ったが…
あてはめ
まず、被告人が原審公判廷で起訴事実を認めたことは「関係部分につきその旨の供述」として証拠能力を有し、これに基づいて事実を認定することは虚無の証拠による認定にはあたらない。細部で矛盾する供述がある場合も、自由心証により冒頭供述を信じることは許容される。次に、所持の成否について、被告人は内容を秘して厳封したまま実弟に保管を依頼したに過ぎず、客観的には引き続き被告人が拳銃を実質的に支配し、所持を継続していたと評価するのが相当である。したがって、Aに預けた期間も含めて所持を認定した原判決に違法はない。
結論
被告人の公判廷供述に基づく事実認定および所持の認定は適法であり、上告を棄却する。
実務上の射程
自由心証主義の限界と、銃刀法等における「所持」の規範的評価(間接所持の肯定)を示す。答案上では、被告人の自白と矛盾する供述がある場合の証拠評価の正当化や、占有・所持の概念を論じる際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)1502 / 裁判年月日: 昭和24年11月10日 / 結論: 棄却
銃砲等所持禁止令違反罪は、銃砲等を所持するを以て直に成立するものであるから、本件拳銃の所持携帯が、假りに數時間に過ぎなかつたとしても、犯罪の成立を妨げる理由とはならない。
事件番号: 昭和25(れ)529 / 裁判年月日: 昭和25年7月28日 / 結論: 棄却
昭和二三年二月二四日附米國第八軍司令部より日本政府内務省保局長宛の「日本の刀劍並びに鉄砲の回收、類別及び處分」と題する覺書は一定の要件の下に、刀劍並に鉄砲の登録申請の受付及び處理を昭和二三年六月一日まで延長を許可したものであつて、一旦成立した銃砲等所持禁止令第一條違反の罪に消長を來すものではない。(昭和二三年(れ)第一…
事件番号: 昭和26(れ)490 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】拳銃の売買事実を認定する際、供述が予備弾倉について明示的に言及していなくても、予備弾倉が拳銃の附属品として一体的に示され、被告人がそれを含めて認める供述をしたのであれば、証拠に基づかない事実認定の違法はない。 第1 事案の概要:被告人Aは被告人Bに対し、拳銃、実弾および予備弾倉を売却し、Bはこれを…
事件番号: 昭和23(れ)397 / 裁判年月日: 昭和23年7月29日 / 結論: 棄却
一 「九四式拳銃」は銃砲等所持禁止令施行規則(昭和二一年内務省第二八號)第一條に規定する銃砲に該當する。 二 彈倉は銃砲等所持禁止令施行規則第一條の銃砲の範圍内に含まれる。 三 被告人が「自宅において所持して居た」と判示すれば、銃砲等所持禁止令第二條の「所持した者」の判示方法として缺くるところがなく、所持の態容を判示す…