判旨
被告人が公判廷において犯罪事実を全面的に認めている場合、証拠品の一部について取調べを行わなかったとしても、直ちに証拠裁判主義等の法則に違反するものではない。
問題の所在(論点)
被告人が罪状を認めている場合、起訴状記載の物件すべてについて証拠調べを行う必要があるか。特に、取調べを行わなかった物件について有罪認定の基礎とすることが許されるか(証拠裁判主義の限界)。
規範
被告人が公判廷において公訴事実を全面的に認め、これを争っていない場合においては、特定の証拠物の取調べを不可欠とするような特段の事情がない限り、その取調べを行わなくても法則違反(証拠裁判主義違反等)にはならない。
重要事実
被告人が拳銃1丁および実包10個を所持していたとして起訴された事案。原審は、証拠品のうち実包5個については証拠調を行ったが、拳銃本体および残りの実包5個については取調べを行わなかった。被告人は原審公判廷において、拳銃および実包10個すべての所持事実を全面的に認め、何ら争っていなかった。
あてはめ
被告人は原審公判廷で本件拳銃および実包すべての所持を全面的に認めており、これを争う姿勢を示していない。このような状況下では、取り調べられていない拳銃や残りの実包について、その取調べを不可欠とするような事情は認められない。したがって、証拠として取り調べた実包5個以外の物件について直接の取調べが行われなかったとしても、判決の基礎とすることに法則上の違法はない。また、当該拳銃が強盗に使用されたとの認定もなされていないため、審理不尽等の問題も生じない。
結論
被告人が自白している場合、証拠品の一部のみの取調べに基づき事実認定を行っても法則違反とはならず、上告は棄却される。
実務上の射程
事件番号: 昭和25(あ)3365 / 裁判年月日: 昭和26年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】一罪として起訴された犯罪の一部が証明不能により無罪と認められる場合であっても、主文で特に無罪を言い渡す必要はなく、有罪と認めた他の部分のみを判示すれば足りる。 第1 事案の概要:被告人は拳銃と実砲の所持につき、一罪として起訴された。第一審は、その実砲のうち一部の不法所持について、犯罪の証明がないも…
自白事件における証拠調べの簡略化の許容性を論じる際の根拠となる。ただし、現行法下では自白のみによる有罪判決は禁止されており(補強法則)、本判決はあくまで「一部の証拠物」の取調べの要否に関する判断である点に注意を要する。
事件番号: 昭和24(れ)1759 / 裁判年月日: 昭和25年1月10日 / 結論: 棄却
論旨は、審理の冒頭における概括的な犯罪事実の承認によつて、犯罪事實の内容に亘り全部を認めたものとすることはできないと主張するなるほど、被告人が概括的の問答では犯罪事實を認めても、個々の點についてはこれに反する供述をしたような場合には、冒頭の答えだけで細部に亘る悉くの事實を認めたものとは云い難いこともあらう。しかしその何…
事件番号: 昭和26(れ)854 / 裁判年月日: 昭和26年9月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白以外に、適法な証拠調べを経た押収品等の物証が存在する場合には、憲法38条3項の「自白が被告人に不利益な唯一の証拠である場合」には当たらず、有罪判決を言い渡すことができる。 第1 事案の概要:被告人が脇差や日本刀等の所持により起訴された事案において、原審の公判調書には「押収品は全部これを…
事件番号: 昭和26(れ)490 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】拳銃の売買事実を認定する際、供述が予備弾倉について明示的に言及していなくても、予備弾倉が拳銃の附属品として一体的に示され、被告人がそれを含めて認める供述をしたのであれば、証拠に基づかない事実認定の違法はない。 第1 事案の概要:被告人Aは被告人Bに対し、拳銃、実弾および予備弾倉を売却し、Bはこれを…
事件番号: 昭和23(れ)1514 / 裁判年月日: 昭和24年2月15日 / 結論: 棄却
判決書に被告人の住居を記載するのは、被告人の氏名、年齢、職業等の記載と相俟つて被告人の同一性を特定するためである。されば、原判決が被告人の住居として「三百九十二番地」と記載したことが假りに所論のように「三百九十三番地」誤記であるとしても、これがために前記の特定を害するわけではないから原判決には所論のような違法はなく論旨…