原判決は、被告人の判示第一の犯行につき、その犯意の證明として「若し日本刀や匕首で相手を斬り付けるときは、斬り所によつては當然相手を死に到らしめることを豫想しながら」本件犯行に出たことを記載している。自己の行爲が他人を死亡させるかも知れないと意識しながら敢えてその行爲に出た場合が殺人罪のいわゆる未必の故意ある場合に當ることは云うまでもないところであつて前記の原判示説明は、このことを云い現はしているのである。
殺人罪における未必の故意ある一場合
刑法38條1項,刑法43條,刑法203條
判旨
自己の行為が他人を死亡させるかもしれないと意識しながら、あえてその行為に出ることは、殺人罪の未必の故意に該当する。また、殺意の有無は各事件の具体的状況に基づき判断されるべきであり、凶器の使用や負傷部位等の客観的事実から殺意を推断することは許容される。
問題の所在(論点)
殺人未遂罪の成否に関し、死の結果が発生する可能性を認識しつつあえて行為に及ぶことが「殺意(未必の故意)」として認められるか。また、客観的事実から未必的犯意を推断することが許されるか。
規範
殺人罪(刑法199条)における殺意は、必ずしも確定的なものであることを要せず、自己の行為によって他人が死亡する結果が発生するかもしれないと予見・意識(認識)しながら、あえてその行為に及ぶという「未必の故意」があれば足りる。また、殺意の有無は、凶器の種類、攻撃の部位・程度、動機等の客観的事実から経験則に基づき総合的に判断される。
重要事実
被告人は、露店商人仲間の縄張り争いに起因して、日本刀や匕首(あいくち)を携行して相手方の「殴り込み」に加わった。被告人らはこれらの凶器を用いて、被害者Cらに対し、切り傷や刺し傷を負わせる暴行を加えた。弁護人は、縄張り争いにおける殴り込みには殺意がないのが経験則であると主張し、殺意を認めた原判決を不服として上告した。
事件番号: 昭和25(あ)1243 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
本件第一審判決は、弁護人の正当防衛の主張を排斥して「Aが拳銃を携えていたことは認め得るが、同人が拳銃を被告人の心臓部に突き付けたということは之を認め難く、従つて未だ急迫不正の侵害行為があつたとは謂い得ない」と判示し、原判決もこの認定を是認したのである。「被害者が拳銃を所持していたことを認め」たからとて、それは必ずしも所…
あてはめ
被告人は日本刀や匕首といった殺傷能力の高い凶器を使用しており、これらで切り付ければ「切り所によっては当然相手を死に至らしめる」ことを予見・予想していたといえる。このような認識がありながら敢えて斬りつけた事実は、死の結果を容認していたものと解される。また、縄張り争いという背景があっても、実際の攻撃態様(凶器の使用や負傷の程度)から殺意を推断することは、間接証拠による事実認定として正当である。弁護人が主張する「殴り込みには殺意がない」という独自の経験則は採用できず、個別の事件ごとに判断すべきである。
結論
殺意の認定に誤りはなく、殺人未遂罪の成立を認めた原判決は妥当であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
故意の定義、特に「未必の故意」の定義を論述する際の基礎となる判例である。「認識+認容」のうち認識(意識)の側面を強調しているが、実務上は「死亡の結果を発生させてもやむを得ない」という認容の有無を、客観的事実(凶器、部位、回数等)から推認する際の構成として用いる。
事件番号: 昭和23(れ)2030 / 裁判年月日: 昭和24年5月17日 / 結論: 棄却
殺人被告事件において、被告人が過失による傷害である旨の主張は、旧刑訴法第三六〇条第二項の主張にはあたらない。
事件番号: 昭和23(れ)1469 / 裁判年月日: 昭和24年7月13日 / 結論: 棄却
一 銃砲等所持禁止令附則大二項所定の所持許可の申請期間は同令第一條第一項第一乃至四號に該當する銃砲等について定められたものであつて、かかる銃砲等についても、右の許可申請をしないときは、右期間内の所持も不法であるとなすこと當裁判所の判例に示されている通りである(昭和二二年(れ)第一八一號、昭和二三年四月一七日第二小法廷判…
事件番号: 昭和40(あ)1998 / 裁判年月日: 昭和41年7月7日 / 結論: 棄却
被告人の長男甲が乙に対し、乙がまだなんらの侵害行為に出ていないのに、これに対し所携のチエーンで殴りかかつた上、なお攻撃を加えることを辞さない意思をもつて、庖丁を擬した乙と対峙していた際に、甲の叫び声を聞いて表道路に飛び出した被告人は、右のごとき事情を知らず、甲が乙から一方的に攻撃を受けているものと誤信し、その侵害を排除…
事件番号: 昭和25(れ)1003 / 裁判年月日: 昭和25年11月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】傷害罪(刑法204条)の成立には、必ずしも傷害の意思(生理的機能障害を生じさせる認識・認容)があることを要せず、暴行の意思をもって暴行を加え傷害の結果を生じさせた場合も含まれる。 第1 事案の概要:被告人は、被害者に対して暴行を加えたところ、被害者が傷害を負い、その結果として死亡するに至った(傷害…