殺人被告事件において、被告人が過失による傷害である旨の主張は、旧刑訴法第三六〇条第二項の主張にはあたらない。
過失の主張と旧刑訴法第三六〇条第二項
旧刑訴法360条2項,刑法199条,刑法210条,刑法410条20号
判旨
殺意を否認し過失による傷害を主張する弁解は、犯罪成立を阻却する事由の主張ではなく、単なる犯罪事実の否認にすぎない。したがって、裁判所が判決においてこれに対する判断を明示しなくとも、旧刑訴法上の判決に付すべき理由の欠如には当たらない。
問題の所在(論点)
殺意を否認して「過失によって負傷させた」とする弁解が、判決において特段の判断を要する「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実の主張(旧刑訴法360条2項)」に該当するか。
規範
特定の構成要件(例えば殺人罪の殺意)を否認し、より軽い罪(過失傷害罪等)の成立を主張する弁解は、犯罪の構成要件を根底から否定する趣旨のものにすぎず、刑法上の違法性阻却事由(緊急避難等)や責任阻却事由の主張には該当しない。したがって、判決において個別に判断を示す必要はない。
重要事実
被告人は、被害者が日本刀を振り上げたため、危ないと思って後退した際に木に腰が当たり、前に倒れた瞬間に手に持っていた日本刀で被害者を刺してしまったと供述した。弁護人は、この供述が刑法37条の緊急避難の主張に該当するにもかかわらず、原審がこれに対する判断を判決に示さなかったことは違法であるとして上告した。
事件番号: 昭和24(れ)1973 / 裁判年月日: 昭和24年11月1日 / 結論: 棄却
公判請求書の公訴事実に、被告人の自宅において隠匿所持したとあるのを、原判決摘示事實のように、自動車で運搬して所持したと認定しても、それは本件銃砲等不法所持の態様が異なつただけで基本たる事實に相違を來たしたのでないことは、右の公判請求書の公判事實と原判決摘示事實第一とを比照すればおのずから明らかである。よつて原判決には所…
あてはめ
被告人の供述は、自らの転倒という不測の事態により結果が発生したとするものであり、過失による傷害を主張する趣旨と解される。これは殺人罪の主観的構成要件である殺意を否認する点に帰結し、構成要件に該当する事実そのものを争うものである。一方で、緊急避難の主張は「危難を避けるためにやむを得ず行った」という違法性阻却の主張であるが、被告人の弁解は「わざとではない(過失)」という点に主眼があり、法的構成として緊急避難の主張とは認められない。
結論
被告人の供述は単なる殺意の否認(犯罪事実の否認)であり、犯罪成立を阻却する事由の主張には当たらないため、原審がこれに判断を示さなかったことに違法はない。
実務上の射程
刑事訴訟において、構成要件該当性を争う主張(殺意の否認やアリバイ等)と、構成要件該当性を前提とした上で違法性・責任を阻却する主張(正当防衛、緊急避難等)を区別する際の指針となる。実務上、前者は「罪となるべき事実」の認定を通じて排斥されれば足り、判決の「理由」欄で独立して判断を示す必要がないことを示唆している。
事件番号: 昭和25(れ)1449 / 裁判年月日: 昭和26年2月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認を理由とする上告は、刑事訴訟法応急措置法13条2項に基づき、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が上告を提起したが、弁護人が主張した上告趣意の内容は事実誤認を主張するものであった。 第2 問題の所在(論点):事実誤認の主張が、当時の刑事訴訟手続(刑事訴訟法応急措置法等)…
事件番号: 昭和23(れ)1556 / 裁判年月日: 昭和24年4月14日 / 結論: 棄却
一 本件のごとき銃砲等所持禁止令違反事件の審理においては必ずしも常に所持の目的物(本件においては拳銃等)を公判廷において證據調をしなければ、處罰ができないと言うものではない。 二 銃砲等所持禁止令違反の犯罪において犯罪の構成要件は當該法令に掲げる目的物を所持することである所論「法廷の特別の理由がないのに拘わらず」という…
事件番号: 昭和26(れ)630 / 裁判年月日: 昭和26年6月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件は、上告趣意が事実誤認または量刑不当の主張、あるいは原審の認定しない事実に基づいた批判にすぎない場合には、上告の適法な理由にならないことを示したものである。 第1 事案の概要:被告人側が原判決に対して上告を申し立てたが、その上告趣意の内容は、原審の事実認定に誤りがあるとする主張や、量刑が不当で…
事件番号: 昭和23(れ)1577 / 裁判年月日: 昭和24年5月18日 / 結論: 棄却
一 しかしその判決をした當該裁判所の公判廷における被告人の自白は、憲法第三八條第三項並びに刑訴應急措置法第一〇條第三項にいわゆる「本人の自白」にあたらないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第一六八號、同年七月二九日大法廷判決)從つて論旨は採用することができない。 二 しかし新刑訴法を如何なる事件…