一 刑法第五四條第一項後段の犯罪の手段たる行爲というのは犯罪の性質上通常他の種の犯罪の手段として用いられるものであるか否かを標準として定むべきものであることは當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第四四二號、同年七月一七日第二小法廷判決)そして酒類の密造はその性質上通常必ずしも酒類を物價統制令の條項に違反して販賣する手段としてなされるものとは云うことができないから、原判決が本件酒税法違反の罪と物價統制令違反の罪とを併合罪として認めたことは正當である。 二 統制額の超過販賣等に關する物價統制令違反の罪は統制額を超えて賣買すれば成立するものであるから、原判決のように被告人が統制額を超えて所定の物品を販賣し又は買入れた事實を判示するを以て足り必ずしも所論のように超過額を明示する必要はないのである。 三 原判決が刑法第四七條を適用するに當り、その重罪が何であるかを明示していないから詐欺罪と物價統制令違反罪との何れの罪に決定の加重をしたか明らかでない嫌があるけれども、その何れの刑に從つても刑期は同一であつて主文に影響するところがないのであるから、之を破棄すべき違法があると認めることはできない。
一 酒税法第六〇條違反行爲と物價統制令違反行爲とを牽連犯としないで併合罪として處斷したことの正否 二 物價統制令第三條違反行爲と判決における事實摘示の程度 三 刑法第四七條の適用において刑期同一の二個の罪の何れに決定の加重をしたか明白でない判決の正否
刑法45條,刑法54條1項,刑法47條,酒税法60條,物價統制令3條,舊刑訴法360條1項
判旨
刑法54条1項後段にいう「犯罪の手段たる行為」にあたるかは、犯罪の性質上、通常その罪が他の罪の手段として用いられるものであるか否かを基準に判断すべきである。酒類密造は、性質上通常は物価統制令違反の販売手段として行われるものとはいえないため、併合罪となる。
問題の所在(論点)
数個の犯罪が「犯罪の手段」と「結果」の関係(牽連犯)にあるといえるための判断基準、および酒類の密造と超過価格での販売がその関係にあるか。
規範
刑法54条1項後段の「犯罪の手段たる行為」(牽連犯)にあたるか否かは、当該犯罪の性質上、通常他の種の犯罪の手段として用いられるものであるか否かという客観的な標準によって決定すべきである。個々の犯人の主観的な意図や具体的な犯行態様ではなく、一般的・抽象的な犯罪の性質に基づき判断する。
事件番号: 昭和23(れ)442 / 裁判年月日: 昭和23年7月17日 / 結論: 棄却
統制額を超えて販賣する目的で白鹽を窃取し、これを統制額を超えて販賣した、場合には、右窃取行爲と物價統制令違反行爲との間には、刑法第五四條第一項後段の關係はない。
重要事実
被告人は、酒税法に違反して酒類を密造し、さらにその酒類を物価統制令の定める統制額を超えて販売した。原審は、この酒税法違反の罪(密造)と物価統制令違反の罪(販売)を、牽連犯ではなく刑法45条前段の併合罪として処理した。これに対し被告人側が、密造は販売の手段であるとして牽連犯の成立を主張し上告した。
あてはめ
酒類を密造する行為(酒税法違反)は、その犯罪の性質上、必ずしも物価統制令の条項に違反して販売するための手段としてなされるものとはいえない。すなわち、密造それ自体で完結し得る罪であり、販売行為を当然に予定したり、通常その手段として予定されている関係にはない。したがって、本件の二罪間には牽連犯を基礎づける客観的な手段・目的の関係は認められない。
結論
酒税法違反と物価統制令違反の罪は、刑法54条1項後段の牽連犯にはあたらず、刑法45条前段の併合罪となる。原判決に違法はない。
実務上の射程
罪数論における牽連犯の成否について、「客観的説(性質上通常の関係を要する)」を明示した重要判例である。司法試験等の答案上は、数罪の関係を論じる際に「行為者の主観」ではなく「犯罪の性質上の通常性」から判断する際のメルクマールとして引用する。住居侵入と窃盗のような類型的な関係がない限り、安易に牽連犯を認めない実務の指針となっている。
事件番号: 昭和25(れ)1160 / 裁判年月日: 昭和25年11月17日 / 結論: 棄却
食糧管理法旧第三一条違反と酒税法旧第六〇条第一項違反とは牽連犯の関係に立たない。
事件番号: 昭和24(れ)3064 / 裁判年月日: 昭和25年11月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立において、共謀および詐欺の意思等の主観的事実が原判決挙示の証拠により肯定できる場合、その認定は適法である。また、公判手続の更新については、裁判所が必要と認める場合にこれを行えば足り、一定期間の休止があったとしても直ちに違法とはならない。 第1 事案の概要:被告人AおよびBが、共謀…
事件番号: 昭和23(れ)2067 / 裁判年月日: 昭和24年8月9日 / 結論: 棄却
原審が被告人の數回に亘る行爲に對し刑法第五五條を適用處斷したのは違法であると主張する論旨は、たといその數回に亘る行爲が昭和二二年一一月一五日以後のものであるため刑法第五五條を適用したことが眞實違法である場合でも、被告人に不利益な主張であるから、上告の理由として採用することができない。
事件番号: 昭和27(あ)4516 / 裁判年月日: 昭和29年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売却の交渉と売渡しの行為が不可分の一体をなす場合には、一箇の行為が二個の罪名に触れるものとして、刑法54条1項前段の観念的競合を認めるべきである。 第1 事案の概要:被告人が判示の綿糸について売却の交渉を行い、その後に実際に売渡したという事実があった。原判決は、この売却の交渉と売渡しという一連の所…