被告人は、昭和二三年一一月二五日逮捕状によつて兵庫警察署に逮捕せられ、翌二六日に勾留状態の執行を受けて以来引續き身柄を拘束されていたことが明かである。そうして原判決は、昭和二四年三月二三日の原審公判廷における被告人の供述即ち略ぼ四箇月の拘禁の後の自白を證據として採用している。しかし被告人は、昭和二三年一一月二六日に初めて本件犯罪事實を警察官に自白して以來、即日裁判官の勾留訊問を受けた際にも、次いで爲された警察官及び檢察官の取調に對しても、更らに同年一二月一八日の第一審公判に於ても、終始一貫して右の原審公判廷におけると同趣旨の自白を繰返しているのであるから、原審公判廷における自白と略ぼ四箇月に亘る拘禁との間に何等の因果關係も無いことが明らかである。かように自白と抑留又は拘禁との間に何等の因果關係も存しないことが認められる場合の自白は、憲法第三八條第二項及び刑訴應急措置法第一〇條第二項のいわゆる「不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」に含まれないこと、既に當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第二七一號、同二三年六月三〇日大法廷判決)に示されている通りである。それ故に右の略ぼ四箇月間の勾留が假りに不當に長い拘禁であつたとしても、原判決が證據として採用した被告人の自白が、證據能力の無いものと云うことはできない。
公判廷における自白と拘禁四月後における自白との間に因果關係のないことが明かな場合と憲法第三八條第二項
憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項
判旨
不当に長い拘禁の後の自白であっても、拘禁と自白との間に因果関係が認められない場合には、証拠能力は否定されない。被告人が拘禁前から一貫して同様の自白を継続している場合、拘禁による不当な心理的圧迫が自白を誘発したとはいえないからである。
問題の所在(論点)
不当に長い拘禁の後の自白について、拘禁と自白との間に因果関係が認められない場合であっても、憲法38条2項等に基づき一律に証拠能力が否定されるか。
規範
憲法38条2項及び刑事訴訟法319条1項(旧応急措置法10条2項)にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」として証拠能力が否定されるためには、当該拘禁と自白との間に因果関係が存在することを要する。拘禁と自白との間に因果関係が認められない場合には、たとえその拘禁が不当に長いものであったとしても、直ちに自白の証拠能力を否定することはできない。
重要事実
被告人は、昭和23年11月25日に逮捕され、翌26日から勾留された。被告人は、逮捕当日の警察官による取調べ、翌日の裁判官による勾留質問、その後の検察官の取調べ、及び同年12月18日の第一審公判において、一貫して窃盗の事実を認める自白を繰り返していた。原判決は、約4か月の拘禁を経た昭和24年3月23日の原審公判廷における自白を証拠として採用し、有罪判決を下した。これに対し弁護側は、当該自白は不当に長い拘禁の後の自白であり、証拠能力を欠くと主張した。
あてはめ
本件において、被告人は逮捕直後から警察官、裁判官、検察官、そして第一審公判に至るまで、終始一貫して原審公判廷と同様の自白を繰り返している。約4か月の拘禁の後に得られた本件自白は、拘禁が開始される前から既に形成されていた供述内容の継続にすぎない。したがって、本件自白と約4か月にわたる拘禁との間には因果関係がないことが明らかである。仮に当該拘禁が不当に長いものであったとしても、因果関係を欠く以上、自白の任意性に疑いを生じさせる事情にはならない。
結論
自白と拘禁との間に因果関係がないことが明らかな場合、その自白は「不当に長い拘禁の後の自白」に当たらず、証拠能力を有する。
実務上の射程
自白の証拠能力を争う際、拘禁期間の長さという形式的基準だけでなく、その拘禁が自白を誘発したかという実質的な因果関係が重要となる。本判例は、拘禁前から一貫して自白している場合には因果関係を否定しやすいことを示しており、あてはめにおいて供述の変遷(一貫性)を重視する実務の指針となる。
事件番号: 昭和23(れ)718 / 裁判年月日: 昭和23年12月1日 / 結論: 棄却
一 當該公判廷における自白は刑訴應急措置法第一〇條第三項にいわゆる自白に包含せられないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年七月二九日言渡、同年(れ)第一六八號大法廷事件判決) 二 被告人は警察および檢察廳の取調べ以來本件犯行を自白し、つづいて被告人の勾留後約五〇日で開かれた第一審公判においても、同様自白…