原判決に「匕首や出刄庖丁」とあるが、原審がその證據として舉げた被告人の供述中には、共犯者Aが「出刄庖丁」Bが「庖丁」を持つたとあつて「匕首」といふことがあらわれていないから、原判決には虚無の證據によつて事實を確定した違法があるという、のである。なるほど原判決の事實摘示と證據に舉げた被告人の供述の内容との食いちがいは所論の通りであるが、しかし被告人供述のその部分を原審公判調書について調べて見ると「A」が「匕首」でとあるのを「出刄」と訂正してあり、次に「Bが出刄で」とあるのを「匕首」と訂正すべきところ誤つて「庖丁」と訂正したものと認め得るのであつて原審相被告人Aが昭和二三年一一月二六日の原審公判廷において「私とBは家人に匕首や出刄を突きつけ」と自供している點から見ても、前記の點の誤記であることがうなづける。
事實摘示と被告人の供述の内容との食い違いと誤記たることの認定
舊刑訴法336條
判旨
強盗の共謀者の一人が凶器を所持・使用しなかった場合でも、他の共謀者が凶器を用いて脅迫を行った以上、共同正犯としてその責任を負う。また、証拠書類の作成時に反対尋問の機会がなくても、公判等で適正に証拠として扱われる限り、憲法37条2項には反しない。
問題の所在(論点)
1. 共謀者の一部が凶器を使用した場合に、直接使用していない共謀者もその態様を含めた強盗の共同正犯責任を負うか。 2. 書面作成時に反対尋問の機会がなかった証拠書類を罪証に供することは、憲法37条2項に反するか。
規範
1. 共謀共同正犯(刑法60条)が成立する場合、一部の共犯者が実行した態様(凶器の使用等)は、共謀の範囲内である限り、自ら直接手を下していない他の共謀者にもその帰責が及ぶ。 2. 伝聞証拠の証拠能力について、書面作成時に被告人に反対尋問の機会が与えられていなかったとしても、法律の定める手続に従い証拠として採用されることは、憲法37条2項(証人審問権)に直ちに違反するものではない。
重要事実
被告人は共犯者らと強盗を共謀し実行したが、被告人自身は匕首や出刃包丁などの凶器を所持・使用していなかった。原審は、共犯者が凶器を突き付けて被害者を脅迫した事実を認定し、被告人に対しても強盗の共同正犯としての責任を認めた。これに対し被告人側は、自身が凶器を使用していないこと、および被害顛末書等の作成時に反対尋問の機会がなかったため証拠能力が欠如していること等を理由に上告した。
あてはめ
1. 本件各強盗において、被告人の共犯者がそれぞれ被害者に対し凶器を示して脅迫を行った事実は証拠により認められる。被告人は強盗の共謀者の一人である以上、共同正犯の理により、自ら凶器を所持・使用していなくとも、また誰がどの凶器を使用したかが特定されていなくとも、全体として凶器を用いた強盗としての責任を免れない。 2. 刑訴応急措置法12条1項(当時)に基づく書面の証拠採用について、公判廷において被告人や弁護人が供述者の尋問を求めた形跡もない等の状況下では、書面作成時の反対尋問欠如を理由に違憲と断ずることはできない。
結論
被告人は自ら凶器を使用していなくとも強盗の共同正犯としての責任を負い、また、証拠採用の手続にも憲法違反の違法はない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
共同正犯における実行行為の帰責範囲に関する初期の重要判例。被告人が特定の具体的行為(凶器の所持等)を行っていない場合でも、共謀に基づく共同実行が認められる限り、一部の者の行為が全体に及ぶという「一部実行全部責任」の原則を肯定する。司法試験では共謀共同正犯の帰責の範囲や、伝聞例外の合憲性を論じる際の補助的論拠として有用である。
事件番号: 昭和24(れ)2611 / 裁判年月日: 昭和25年2月10日 / 結論: 棄却
他の共犯者に強要され又は欺計によつて、やむなく強盜に參加したもので犯意を阻却するものであるとの主張は、原審辯護人が單に犯情として述べた或は犯意の存在を否定したものに過ぎないことは、原審公判調書の記載に徴し明らかであつて、かかる主張は、舊刑訴法第三六〇條第二項にいわゆる「法律上犯罪ノ成立ヲ阻却スペキ原由タル事實ノ主張」に…
事件番号: 昭和23(れ)1370 / 裁判年月日: 昭和24年1月11日 / 結論: 棄却
被告人が相被告人と共謀の上、強盜をした事實を認定している原判決において、二人共謀の事實と共犯者のどちらかが現實に脅迫の實行行爲をしたことが判分上明確である以上、共犯者のうちどちらかが現實に實行行爲をしたかを明示していなくても、被告人の「罪トナルヘキ事實」の判示として缺くるところはない。