一 記録に徴するに、原判決において證據に舉示した原審公判における被告人A同B同Cの供述は、何れも保釋により身柄を釋放されてより約一年一〇ケ月後の公判期日に出廷し自由且つ任意に供述したものである、そして被告人等自白の經過を見るに、被告人Aは昭和二一年九月三日豫審第三回訊問において犯行を自白してより其後同年一一月二一日の豫審第四回の訊問、同二二年一一月五日の第一審公判(保釋中)同二三年一〇月二一日の原審公判等において(保釋中)何れも終始一貫犯行を自白している。又被告人Bは、昭和二一年九月一七日檢事の取調べに對して犯行を自白し、其後同年九月十八日、及同年一〇月一五日の豫審第一、二回訊問に對してのみならず、同二二年一一月五日の第一審公判(保釋中)及同二三年一〇月二一日の原審公判(保釋中)において何れも終始自白を繰返している。被告人Cは、昭和二一年九月九日警察における最初の取調べにおいて犯行を自白し、其後同年九月一六日検事の取調、同年九月一八日同年一〇月一五日の豫審第一、二回訊問においてのみならず、同二二年八月一五日の第一審公判(保釋中)及同二三年一〇月二一日の原審公判(保釋中)において何れも自白を繰返していることが明白である。以上の事實に鑑みるときは、原審判決舉示の原審公判における各被告人の供述は不當に長い拘禁に基因してなされたものとは認め難い。 二 憲法第二五條第一項は、國家は國民一般に對し概括的に健康で文化的な最低限度の生活を營ましめる責務を負擔し、之れを國政上の任務とすべきであるとの趣旨であつて、此規定により直接に個々の國民は國家に對して具体的現實的にかかる權利を有するものでないということは、當裁判所の判例とするところであつて(昭和二三年(れ)第二〇五號同二三年九月二九日大法廷判決参照)被告人等が假に所論の如く最低限度の生活すら營み得ないため本件犯罪を犯すに至つたとしても其行爲が憲法第二五條第一項によつて正當化され或は實刑を兔れ得るものではない。
一 釋放後約一年一〇月後の自白と不當に長い拘禁後の自白 二 被告人が最低限度の生活を營み得ないで爲したという犯罪行爲と憲法第二五條第一項
憲法38條2項,憲法25條1項,刑訴應急措置法10條2項
判旨
不当に長い拘禁後の自白であっても、自白と拘禁との間に因果関係が存在しないことが明らかな場合には、憲法38条2項等による証拠能力の否定はなされない。
問題の所在(論点)
不当に長い拘禁(抑留)の後にされた自白について、常に憲法38条2項に基づき証拠能力が否定されるべきか。特に、拘禁と自白との間に因果関係が認められない場合の適格性が問題となる。
規範
憲法38条2項及び刑事訴訟法上の「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」として証拠能力が否定されるのは、自白と不当な抑留・拘禁との間に因果関係が認められる場合に限られる。したがって、両者の間に因果関係が存在しないことが明らかに認められる場合には、当該自白の証拠能力は否定されない。
重要事実
被告人らは強盗等の罪に問われたが、その自白が不当に長い拘禁後のものであるとして証拠能力を争った。被告人A、B、Cは、身柄釈放から約1年10ヶ月経過した後の公判期日において、自由かつ任意に自白を維持していた。また、予審段階で自白した被告人Dについても、釈放後の第一審公判を含め終始一貫して自白を繰り返していたという事実が認められた。
あてはめ
本件各被告人の公判における供述は、釈放後かなりの期間が経過した後に任意になされたものであり、不当に長い拘禁に起因するものとは認め難い。被告人Dの予審での自白についても、その後の釈放後の公判で終始一貫して自白が繰り返されている事実に鑑みれば、真実を任意に供述したものと推断でき、不当な勾留と因果関係がないことが明らかである。したがって、これらは不当な拘禁による自白には該当しない。
結論
本件自白は不当な拘禁と因果関係がないことが明らかであるため、憲法38条2項に違反せず、証拠能力を有する。
実務上の射程
自白の任意性・証拠能力を争う際、不当な抑留・拘禁の事実がある場合でも、その後の状況(釈放後の自白維持など)から因果関係が遮断されていると判断されれば証拠能力が認められ得ることを示す。答案では「不当な抑留・拘禁」の存否だけでなく、自白との因果関係の有無まで具体的事実から検討する必要がある。
事件番号: 昭和26(れ)767 / 裁判年月日: 昭和26年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条2項後段が禁じる「不当に長い抑留若しくは拘禁後の自白」とは、身柄拘束と自白との間に因果関係が認められる場合を指す。したがって、身柄拘束と自白との間に因果関係がないことが明らかな場合には、当該自白を証拠とすることは憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人Aは勾留後10日で保釈されたが、…
事件番号: 昭和24(れ)349 / 裁判年月日: 昭和28年6月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条2項にいう「不当に長く拘禁された後の自白」とは、拘禁と自白との間に因果関係があることを要し、因果関係がないことが明らかな自白は含まれない。また、病状があっても審理に耐え得ると認められる限り、公判手続を停止しないことは適法である。 第1 事案の概要:被告人は強盗容疑で逮捕・勾留され、約11…