憲法第三六條にいわゆる「殘虐な刑罰」とは、不必要な精神的肉体的苦痛を内容とする人道上殘酷と認められる刑罰を意味するのであつて被告人の側からみて過重の刑必ずしも「殘虐な刑罰」ではなく、又實刑を科することが被告人の側からみて過重の刑であるとしても、右の法條に違反するものでないことは、既にしばしば當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第三二三號同二三年六月二三日大法廷判決)に示されている通りである。
憲法第三六條にいわゆる「殘虐な刑罰」の意義と實刑を科することの合憲性
憲法36條
判旨
憲法36条にいう「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を指す。被告人の個別事情に照らして過重な刑や、実刑により家族の生活に支障が生じる場合であっても、直ちに同条に違反するものではない。
問題の所在(論点)
刑事裁判において実刑を科すことが、被告人の家庭環境等の個別的事情に照らして過重となる場合、憲法36条の「残虐な刑罰」に該当するか。また、執行猶予の不付与が同条違反や法令違背の問題となり得るか。
規範
憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰をいう。被告人の側から見て過重な刑罰であっても、直ちにこれに当たるとはいえない。また、刑の執行猶予を付すか否かは裁判所の自由裁量の範囲に属する。
重要事実
被告人が刑事事件により有罪判決を受け、実刑を言い渡された。これに対し被告人側は、執行猶予が付されず実刑となったことで、病気療養中の妻の看病や子供の養育に重大な支障を来すことになり、被告人にとって過重な刑罰であって憲法36条が禁じる「残虐な刑罰」に該当すると主張して上告した。
あてはめ
まず、執行猶予の付与の適否は裁判所の裁量事項であり、その不付与は量刑不当の問題にすぎず、適法な上告理由にならない。次に、残虐な刑罰の意義については、刑罰の態様自体が人道上残酷といえるかを基準とすべきである。本件において、被告人に実刑を科すことで家族の養育に支障が生じるとしても、それは刑罰の執行に伴う付随的結果にすぎず、刑罰の内容そのものが不必要な精神的肉体的苦痛を強いる人道に反するものとはいえない。
結論
被告人に実刑を科すことが、家族の生活等に困難をもたらす過重な刑であったとしても、憲法36条の「残虐な刑罰」には該当せず、憲法違反とは認められない。
実務上の射程
憲法36条の「残虐」の定義(不必要な精神的肉体的苦痛・人道上残酷)を引用する際のリーディングケースである。死刑制度の合憲性や、極めて長期の懲役刑、あるいは拘禁環境が問題となる事案において、判断の出発点となる抽象的規範として機能する。被告人の個人的な不利益(家族への影響等)を理由とする違憲主張は排斥されるという射程を持つ。
事件番号: 昭和29(あ)243 / 裁判年月日: 昭和30年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人に対し刑の執行猶予を言い渡さないことが直ちに憲法36条(残虐な刑罰の禁止)に違反するものではない。また、証拠に基づき賍物知情の事実を認定することは憲法14条や37条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、盗品等関与罪(旧賍物罪)の知情(盗品であることの認識)について、単なる推測によって認…